六訂版 家庭医学大全科 「人工中耳」の解説
人工中耳(埋め込み型補聴器)
じんこうちゅうじ(うめこみがたほちょうき)
Middle ear implant (Implantable hearing aid)
(耳の病気)
どんなものか
人工中耳は「音を振動エネルギーに変換して内耳に伝える」という中耳の機能を代行する機器です。聴覚障害者の聴力を補うために、手術によって中耳機能を代替する機器を埋め込むので、欧米では埋め込み型補聴器ともいわれています。
補聴器との違いは、補聴器が増幅した音声をイヤホンから外耳へ聞かせるのに対して、人工中耳は
歴史と現状
1978年、通商産業省工業技術院の医療福祉機器開発事業に基づいた人工中耳が開発されました。84年から臨床応用され、93年には高度先進医療技術として認可されています。
一方、欧米でも人工中耳(埋め込み型補聴器)の研究が行われており、中耳機能の代替という点で振動子を使用したものが96年に登場しています。
人工中耳にとって最も重要な要素は、耳小骨振動子です。振動子には入力された音信号をできるだけ忠実に耳小骨に伝えることが要求され、その優劣により人工中耳の性能が大きく左右されます。
どんな人に有効か
現時点の人工中耳は出力の点で限界があり、合併する
現在の有効性
補聴器装用者と人工中耳装用者の聞き取りを比較すると、音質では前者が「自然」と評価した人10%に対して、後者では63%に及び、声の聞き取りでは「よい」と評価した割合は、それぞれ41%、94%であり、人工中耳のほうの評価がよくなっています。
このように人工中耳は、生活の質(QOL)の改善に大きな役割を果たしていますが、対象とする人口が限られているため、保険の適応になっていません。人工中耳の性能の発展は、機器の進歩によるところが大きいといえ、聞き取りの改善も含めて、最終的な完全埋め込み型を目指して、今後の改良、開発が期待されます。
河野 淳, 池谷 淳
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報