人工内耳(読み)じんこうないじ

家庭医学館の解説

じんこうないじ【人工内耳】

 重度の聴覚障害(ちょうかくしょうがい)のある人に音を聞こえるようにする装置が人工内耳です。音を増幅する補聴器(ほちょうき)とちがい、音を電気信号にかえ、直接、聴神経(ちょうしんけい)に伝えます。体外装置との後ろの皮膚の下に植え込むインプラントからなっています。
 体外装置には、マイクロホンやスピーチプロセッサ、送信コイルがあります。外耳にかけたマイクロホンが音(空気の振動)を拾い、スピーチプロセッサというコンパクトな装置に送り、音を大きさや高低などによって電気的に処理します。こうして処理された信号は、送信コイルを通して、インプラントに伝わります。
 インプラントは受信器と多数の電極でできています。受信器は側頭骨(そくとうこつ)にくぼみをつくって植え込まれ、電極は蝸牛(かぎゅう)に挿入されて聴神経を刺激します。この刺激が脳に伝わって、音と認識されるわけです。
 植え込み手術のために2~4週間入院し、装着後は、2~3か月のリハビリテーションが必要です。植え込んだ部分に強い衝撃を与えないように注意すれば、とくに日常生活に問題はありません。
 人工内耳の適応となるのは、生後に両方の内耳(ないじ)の機能を失った人で、補聴器が有効でない人です。人工内耳の装用については、担当の医師と十分相談して決定してください。

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

人工内耳

耳にかけた小さな機械が拾った音を、体内に埋め込んだインプラントが電気信号に変換し、内耳の蝸牛(かぎゅう)に入れた電極を通じて聴神経を刺激する装置。手術と、その後の音の調整が必要。個人差はあるが、平均すると中度から軽度難聴程度には聞こえるようになるという。

(2017-12-21 朝日新聞 朝刊 岡山全県・1地方)

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百科事典マイペディアの解説

人工内耳【じんこうないじ】

音がから入って聞こえるということは,外耳→中耳→内耳→聴神経→大脳というルートを,音が瞬時に伝わっていることである。難聴はこのルートのどこかに障害があることで起こるが,このうち内耳が原因による難聴を治すために,内耳の役割を果たす装置を人工内耳という。 これは音の振動を感じる蝸牛(かぎゅう)の働きを機械化したもので,聴神経を刺激する装置と音声分析器,プログラム作製装置からできている。 手術では,聴神経の刺激装置を側頭骨に埋め込んで,これに接続している電極を蝸牛に挿入する。さらに,音声分析器をポケットなどに入れ,耳の上にマイクをセットする。会話などの音声がマイクに入ると,音声分析器が音の高低や子音・母音などを判断して,音声を高周波電波に変えて電極を刺激する。これによって,聴神経から脳に信号が伝わる。セットしたばかりの人工内耳では,本当の耳のように正常な音として聞こえないが,聞き取りのリハビリテーション訓練をすることで,1〜2ヵ月で話が分かるようになる。 1994年から人工内耳の手術は健康保険が適用された。手術対象は,日本では途中で聴覚を失った人が多いが,欧米では先天性難聴にも数多くの症例がある。→補聴器

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

人工内耳
じんこうないじ

内耳に電極を埋め込んで聴神経を刺激し、聴力を得るための人工臓器。重度の難聴(聴力レベルが80~90デシベル以上の補聴器を使用しても人のことばが聞き取れない)で、内耳より奥の細胞や神経の障害により起こる両側性の感音性難聴におもに適用される。鼓膜から伝わった振動は内耳で電気信号に変換されるが、人工内耳では電気信号を直接的に内耳に伝えるため、電極を内耳にある蝸牛(かぎゅう)のなかに埋め込む。耳にかけるタイプの補聴器に似た体外装置により、マイクで拾った音声をスピーチプロセッサーで周波数を分析処理して得られた電気信号が人工内耳へ伝えられる。電気信号は電極から聴神経を伝わって脳へ送りこまれ、最終的に音声として認識される。日本では1994年(平成6)に保険適用となり、扱う医療機関も多い。先天性難聴への適応例も増え、生後の早い時期に人工内耳を装着することにより言語習得の促進につながるため、先天性難聴の早期発見のための新生児聴覚スクリーニング検査なども行われるようになった。[編集部]

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六訂版 家庭医学大全科の解説

人工内耳
じんこうないじ
Cochlear implant
(耳の病気)

どんなものか

 人工内耳とは、聴覚(とくに内耳)機能の障害でまったく聞こえなくなった人に、聞こえを取りもどすための医療であり、機器を通じて会話(コミュニケーション)を行えるようにするものです。人工内耳が適応となる人は、補聴器で聴取が難しい高度難聴もしくは(ろう)の人になります。

 2009年現在、人工内耳は世界では12万人以上、日本では6000人以上の使用者がいます。

実際に使うために必要なこと

 人工内耳の使用には手術が必要です。手術時間は約2時間で、耳の後ろの皮膚を約4~5㎝切開し、蝸牛(かぎゅう)へ電極を挿入して機器(図23)を側頭部に埋め込みます。そのほかに、音声を分析するスピーチプロセッサというコンピュータがあり、補聴器と同様な箱形と耳かけ型があります(図24)。

 次に、手術後約2週間を目安に、最初のプログラム作成を行います。電極に電気刺激を与え、聞こえる最小の大きさ(最小可聴閾値(さいしょうかちょういきち))、ちょうどよい大きさ(快適閾値(かいてきいきち))やこれ以上我慢できない大きさ(不快閾値(ふかいいきち))を測定するものです。実際には数回この操作を繰り返しながら、最適なプログラムを作成します。

実際のリハビリテーション(訓練)

 最近の人工内耳は性能がよくなってきたため、言葉を一度覚えた成人では、手術後の訓練は不必要な場合も多くなってきました。実際に、いろいろな人の声を聞いたり、環境音を聞くことがいちばんの訓練となります。

 子どもの場合には訓練が必要です。人工内耳を介して十分聞き取れるように訓練するだけではなく、ほかの人が聞き取れるような発声ができるように訓練する必要があります。具体的には、病院や訓練施設(日本では難聴児通園施設や聾学校)で連日訓練を行い、さらに母親などが家庭で引き続き教育、訓練することが大切です。

どのくらい有効か

 実際の聞き取りでは、環境音では電話のベル、掃除機や洗濯機の音などはほぼ100%聞き取り可能で、補聴器でも聞き取りが悪い雨音、小鳥のさえずりやセミの鳴き声などでも50%以上は聴取できています。静かなところでの聞き取りでは、一対一の会話では、80%の人がすべてまたはおおむねわかるとしています。電話ができる人も40~50%に及んでいます。最近では雑音下での会話や音楽の聞き取りが向上してきています。

 今後とも機器の進歩など治療の向上が期待されますが、専門的な治療なので、とくに子どもの場合には熟練した医師に診察してもらうことが必要です。

河野 淳, 西山 信宏


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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