人工内耳とは、聴覚(とくに内耳)機能の障害でまったく聞こえなくなった人に、聞こえを取りもどすための医療であり、機器を通じて会話(コミュニケーション)を行えるようにするものです。人工内耳が適応となる人は、補聴器で聴取が難しい高度難聴もしくは
2009年現在、人工内耳は世界では12万人以上、日本では6000人以上の使用者がいます。
人工内耳の使用には手術が必要です。手術時間は約2時間で、耳の後ろの皮膚を約4~5㎝切開し、
次に、手術後約2週間を目安に、最初のプログラム作成を行います。電極に電気刺激を与え、聞こえる最小の大きさ(
最近の人工内耳は性能がよくなってきたため、言葉を一度覚えた成人では、手術後の訓練は不必要な場合も多くなってきました。実際に、いろいろな人の声を聞いたり、環境音を聞くことがいちばんの訓練となります。
子どもの場合には訓練が必要です。人工内耳を介して十分聞き取れるように訓練するだけではなく、ほかの人が聞き取れるような発声ができるように訓練する必要があります。具体的には、病院や訓練施設(日本では難聴児通園施設や聾学校)で連日訓練を行い、さらに母親などが家庭で引き続き教育、訓練することが大切です。
実際の聞き取りでは、環境音では電話のベル、掃除機や洗濯機の音などはほぼ100%聞き取り可能で、補聴器でも聞き取りが悪い雨音、小鳥のさえずりやセミの鳴き声などでも50%以上は聴取できています。静かなところでの聞き取りでは、一対一の会話では、80%の人がすべてまたはおおむねわかるとしています。電話ができる人も40~50%に及んでいます。最近では雑音下での会話や音楽の聞き取りが向上してきています。
今後とも機器の進歩など治療の向上が期待されますが、専門的な治療なので、とくに子どもの場合には熟練した医師に診察してもらうことが必要です。
河野 淳, 西山 信宏
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
内耳に電極を埋め込んで聴神経を刺激し、聴力を得るための人工臓器。重度の難聴(聴力レベルが80~90デシベル以上の補聴器を使用しても人のことばが聞き取れない)で、内耳より奥の細胞や神経の障害により起こる両側性の感音性難聴におもに適用される。鼓膜から伝わった振動は内耳で電気信号に変換されるが、人工内耳では電気信号を直接的に内耳に伝えるため、電極を内耳にある蝸牛(かぎゅう)のなかに埋め込む。耳にかけるタイプの補聴器に似た体外装置により、マイクで拾った音声をスピーチプロセッサーで周波数を分析処理して得られた電気信号が人工内耳へ伝えられる。電気信号は電極から聴神経を伝わって脳へ送りこまれ、最終的に音声として認識される。日本では1994年(平成6)に保険適用となり、扱う医療機関も多い。先天性難聴への適応例も増え、生後の早い時期に人工内耳を装着することにより言語習得の促進につながるため、先天性難聴の早期発見のための新生児聴覚スクリーニング検査なども行われるようになった。
[編集部]
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