補聴器とは、難聴の人が音声を聞き取るために使用するもので、音声を増幅する機器です。あくまでも聴覚障害を補うための道具にすぎず、聞き取りそのものを正常にするものではありません。
会話の媒介である音声は、さまざまな音波からなりますが、一定の大きさ(エネルギーの大小)と周波数(音の高低)をもっています。これを
大まかにいうと、大きさでは30~80㏈(デシベルという単位で、聴力レベルの単位と同じ。数が増えるほど大きい音)の範囲に分布しており、大きい音声(たとえば母音)もあれば小さい音声(子音など)もあります。聴力レベルが30㏈以上では、普通の会話音が多少なりとも聞き取りにくくなり、聴力が悪くなるほど、補聴器が必要となります。
この際、難聴者が聞き取れない音声を聞き取れるような大きさに増幅するのが補聴器です。しかし、ほとんど聴力が残っていない場合には、どんなに補聴器で音声を増幅しても聞き取ることはできません。
難聴の人でも補聴器で聞き取れるようになりますが、ただ音声を大きくすればするほどよいというわけではありません。大きすぎる音声は耳に不快感をもたらすのみならず、逆に聴覚神経を障害し、難聴の原因となります。このため、あまり大きい音声が入らないように調節する必要があります(最大音圧調節)。
また、周波数が低い音(ブーという振動する感じの音)から高い音(金属音やキンキンとする音)の間で、難聴の程度に合わせて増幅を調節する必要があります(周波数特性調節)。とくに聞き取りをよくしたい場合には、高い周波数を増幅することが有効になります。
視覚(眼鏡)と違って、聴覚(補聴器)は微妙な調節が必要です。その訳は、聞き取りたい音声が一定ではないこと、環境雑音が場所や時間によって、極端な場合には瞬時に異なるという点です。
最近のデジタル補聴器は、従来のアナログ式に比べ、音質処理などかなり性能はよくなってきました。しかし、視覚と違って、聴覚では慣れの問題があり、必ずしもすべてを満足させるものではありません。
補聴器のリハビリテーションでは、実際に使用し「大きすぎる音はなかったか」「聞き取りにくいことはなかったか」など、1~2週間ごとに数回、調節を繰り返す必要があります。そうした調節をへて、日常生活で最も聞き取りがよい状態で使用できるようになります。
補聴器は現在500種類ほどあります。最近は軽度難聴者用のオープン型が増えています。しかし、実際に試すことができるのは数種類にすぎません。まったく実用的でない場合には、補聴器を換えて試聴することが必要になるので、病院や補聴器販売店のセカンドオピニオン(第二の診断)も忘れないでください。
使用中に少しでも気になることがあれば、すぐ相談することも忘れないでください。
河野 淳
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
耳の遠い人(難聴者)が日常生活におけるコミュニケーションの障害を改善するために,音を大きくして聞く器具。19世紀から第2次大戦前までは集音を目的としたらっぱ型や伝音管型,蜂の巣型などのものが使用されたが,近年は電子工学の発達に伴い,電気的に音を増幅する電気補聴器が広く普及している。電気補聴器は,マイクロホン,増幅器,イアホンから構成された携帯用の音声増幅装置である。その歴史は古く,1880年ころA.G.ベルにより電話が発明された後,カーボンマイクロホンと電磁型イアホンを組み合わせた装置として開発され,その後,1921年ころから真空管方式が採用されたが,当初は大型のため固定式であった。37年アメリカにおいてロッシェル塩の圧電効果を利用した小型マイクロホンとイアホンを組み込んだ携帯用補聴器が完成し,54年にはトランジスターの導入によってより小型の眼鏡型補聴器が出現している。
今日普及している機種は,箱型,眼鏡型,耳掛け型,挿耳型などである。近年,補聴器は集積回路の採用によってさらに軽量小型化が進められており,中耳埋込み型の超小型補聴器の研究も行われているが,一方,単に音声を大きな音に増幅するだけでなく,難聴者にさらに聞きやすい音を与えるという方向に進歩している。すなわち,慢性中耳炎などによる伝音性難聴の場合には補聴器はきわめて有効に作動するが,内耳が障害された感音性難聴の場合には音が大きく響いて困るというレクルートメント現象を伴うために,これに対処した自動音量制御装置や出力の周波数特性が変化できる音質調整装置が組み込まれている。眼鏡型,耳掛け型,挿耳型補聴器は小型軽量であるという点のほかに,マイクロホンが装用者の耳の位置にあるために頭蓋の陰影効果(高い周波数の音の場合,頭蓋が影となって,一方からの音が他方の耳には小さく聞こえる現象。これによって音源の方向を知ることができる)などを利用できる利点があるが,マイクロホンとイアホンの距離が近いためにハウリングを起こしやすい。一方,箱型補聴器は大型となり,本体とイアホンがコードで結ばれるために外観および作業上の難点があるが,性能は良好であり操作が簡便であるために,欧米と異なり,今日もなお日本ではかなり普及している。そのほか特殊な補聴器としては,一側高度難聴者に使用するクロス型補聴器のほか,両耳用補聴器,骨導型補聴器,FM型補聴器,集団補聴器などがある。
現在の補聴器はまだ万能ではないが,とくに幼小児の難聴者がことばを修得するためには絶対不可欠,有用な器具であり,難聴の発見と同時にできるだけ早期に装用,訓練する必要がある。さらに高齢者に対しては,周囲の者がゆっくり話しかけるなどの環境づくりも補聴器の有用性を増すためにはたいせつである。現在,補聴器に関する未解決の問題として,個々の難聴者について最も適応した周波数特性と,増幅利用を選択するフィッティング法の確立と,また聴覚中枢の障害によって高度の難聴をきたした後迷路性難聴者(たとえば老人性難聴)に対して有効な補聴器を開発することなどが残されている。最近デジタル型補聴器の研究開発も行われ,市販されるようになっているが,性能・価格の点で改善の余地がある。
→難聴
執筆者:佐藤 恒正
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
難聴で聞こえの悪くなった聴力を補うための電気音響機器をいう。メガホンのような簡単なものは補聴器具などとよび、補聴器と区別している。
補聴器は普通、音を受けるためのマイクロホン、増幅器、イヤホン、電源から構成されている。増幅器には、音質や音量を調節するための器具がついている。大型のものは卓上などに置き、集団、ときには個人用として使用する。小型のものは個人が携帯用として使用する。一般には大型のものが小型のものよりも音響学的な性質は優れているが、小型なものほど携帯が簡便で目だたないという利点があり、小型でも大型なみの音質をもつものがつくられるようになってきた。小型携帯用の補聴器には次のような種類がある。
(1)箱型 イヤホンを除く部分が一つの箱に組み込まれ、衣服につけて携帯する。
(2)耳かけ型 箱型の箱の部分を小さく変形して耳介の後ろにかけられるようにしたもの。
(3)眼鏡型 箱型の箱の部分をさらに小さく変形して眼鏡の枠のつるに組み込んだもの。
(4)耳孔挿入型 小型でイヤホンと一体にして外耳道の中に挿入するもので、使用していることが目だたないため急増している。
(5)その他 音波を振動として頭蓋(とうがい)骨に伝える骨導型のものがある。耳小骨に振動を伝えるものや、電気刺激として聴神経を直接刺激するものなどの研究も行われている。
なお、補聴器は伝音難聴には非常に有効であるが、感音難聴では使用が困難な場合もあり、適応したものを選択してある程度訓練を行い、慣れることが必要である。
[河村正三]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…難聴の程度はある特殊な周波数帯域,たとえば,4000Hzのみが低下する場合から全聾になるものまで多種多様である。一方,後迷路性難聴は聴神経腫瘍で代表される脳腫瘍や片麻痺などを伴う脳循環障害の場合にみられるが,その特徴は音がきこえるのに言葉のきき分けが著しく障害されることであり,老人性難聴が高度になると後迷路も同時に障害されるためにこの傾向を示し,補聴器が有効に使用できない場合がある。(3)混合性難聴 伝音性難聴と感音性難聴の両者の特徴を有する。…
※「補聴器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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