日本大百科全書(ニッポニカ) 「人類婚姻史」の意味・わかりやすい解説
人類婚姻史
じんるいこんいんし
The History of Human Marriage
フィンランドの人類学者ウェスターマークの主著。1891年に初版が刊行されたのち次々に版を改め、1921年の第5版では従来の一巻本が一挙に全3巻の大著として書き改められた。著者は、本書の初版刊行当時に依然として支配的だった、進化主義学派の原始乱交=集団婚説に対し敢然と論争を挑み、原始一夫一婦制説の開拓者的存在となった。彼は婚姻における生物学的条件を重視し、原始一夫一婦制説も類人猿の性生活から類推した。本書は膨大な民族誌的資料を駆使しているだけに、婚姻史に関する文献目録としての価値も高い。1926年に著された『婚姻小史』A Short History of Marriageは、彼の婚姻史学を概観するうえで有益である。
[江守五夫]
『江守五夫訳『人類婚姻史』(ただし『婚姻小史』の訳)(1970・社会思想社)』