日本大百科全書(ニッポニカ) 「伊勢物語絵巻」の意味・わかりやすい解説
伊勢物語絵巻
いせものがたりえまき
平安時代の歌物語『伊勢物語』に取材した絵巻。もとはかなりの大部であったと思われるが、現在は詞(ことば)2段、絵7段分の残欠1巻を残すのみ。絵は引目鉤鼻(ひきめかぎはな)による顔貌(がんぼう)表現が古様を示し、また濃彩の作絵(つくりえ)の画風も伝統をよく踏襲する。また画面は、金銀の砂子(すなご)を密にまき、山や土坡(どは)の皴(しゅん)に金泥(きんでい)を多用するなど、きわめて装飾的な傾向が強い。一方、建築などに斜線を駆使した動的で新しい構図感覚も見逃しがたい。鎌倉時代(14世紀)の作で、筆者は不明。大阪府和泉(いずみ)市久保惣(くぼそう)記念美術館蔵。
[村重 寧]
『『日本絵巻大成 23』(1979・中央公論社)』