引目鉤鼻(読み)ひきめかぎはな

精選版 日本国語大辞典 「引目鉤鼻」の意味・読み・例文・類語

ひきめ‐かぎはな【引目鉤鼻】

〘名〙 (「ひきめかぎばな」とも) 画法一つ大和絵で、人物の顔を描く技法平安時代におこった。斜めの角度から見た下ぶくれの顔の輪郭に目を一線に引き、鼻を短い鉤形(かぎがた)に描くこと。引目引鼻。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「引目鉤鼻」の意味・読み・例文・類語

ひきめ‐かぎばな【引目×鉤鼻】

平安・鎌倉時代作り絵大和絵などで、特に貴族男女の顔貌表現に用いられた技法。微妙な調子をつけた細い線で表した目、「く」の字形の鼻、ふっくらとした顔の輪郭などを特徴とする。源氏物語絵巻などが典型

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「引目鉤鼻」の意味・わかりやすい解説

引目鉤鼻 (ひきめかぎはな)

平安時代の物語絵巻をはじめとする作絵(つくりえ)系絵画に独特の人物面貌表現法。特に貴族階級など身分の高い人物の面貌を表す場合に用いられる。顔は斜め正面向きに描かれるのが通例で,全体にふっくらとした類型的な形に輪郭され,目は1本の線を引くことで,また鼻は小さく〈く〉の字形(鉤形)の描線で表現される。しかしこうしてきわめて簡略化された面貌表現においても,輪郭や目鼻の線は機械的に引かれた1本の線ではなく,きわめて細い線を何本も引き重ねながら,微妙なニュアンスをこめて描きわけられ,そこに場面の状況に応じた豊かな感情表現までも可能としているのである。このような引目鉤鼻の描法を最大限に用いて,個々の人物の心理や画面全体の情趣を色濃く表現したのが,12世紀前半に作られた徳川・五島本《源氏物語絵巻》である。しかしこの引目鉤鼻描法も鎌倉時代の《紫式部日記絵巻》や白描物語絵巻などでは,輪郭や鼻が単純な1本の線で描かれ,眼は上下の瞼(まぶた)が引き分けられるなど,本来の描法が見失われ,形式化しながら,やまと絵系の細密画人物面貌の描法として近世まで受け継がれた。
絵巻
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「引目鉤鼻」の意味・わかりやすい解説

引目鉤鼻【ひきめかぎはな】

平安〜鎌倉時代の大和絵における人物の顔面描写の技法。一筆の細長い線で目を描き,鼻は〈く〉の字状の鉤形であらわす。日本独特の描法で,《源氏物語絵巻》《平家納経》《扇面古写経》などに見られる。
→関連項目扇面法華経冊子枕草子絵巻

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「引目鉤鼻」の意味・わかりやすい解説

引目鉤鼻
ひきめかぎはな

平安時代のやまと絵の表現技法の一つ。長い黒髪と面長の顔に細い筆線のやや長めの目を引き,同じ筆線で鉤状の鼻を描くこと。宮廷,特に貴族の男女の顔の表情を表現するのに用いられた。類型的な顔貌表現であるが,『源氏物語絵巻』では細密な筆線の引き重ねによって,微妙な心理を表出するまでにいたっている。このほか『紫式部日記絵巻』『枕草子絵巻』などの作り絵や,白描やまと絵の系統の絵に用例がみられる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

山川 日本史小辞典 改訂新版 「引目鉤鼻」の解説

引目鉤鼻
ひきめかぎはな

平安時代以降のやまと絵系の物語絵などにみられる顔貌表現。主として貴族階級の人物を描く場合に使用。2本の弧線で額から頤(おとがい)にかけての輪郭をとり,太い眉,長く線状に引かれた目,鉤形の鼻,小さな赤い口で表す。12世紀前半の「源氏物語絵巻」の人物が典型。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社日本史事典 三訂版 「引目鉤鼻」の解説

引目鉤鼻
ひきめかぎはな

平安時代,大和絵の人物顔面描写の一技法
下ぶくれの顔に細い一線を引いただけで目を表し,鼻も同じような細い線で小さく鉤状に描く。『源氏物語絵巻』や『扇面古写経』などにみられる。

出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の引目鉤鼻の言及

【絵巻】より

…それはまず墨の線で下描きをし,それに従って画面全体に絵具を塗り重ねて彩色し,細い墨線で目鼻をはじめ細部を描き起こす,〈つくり絵〉の技法による。また面貌描写において引目鉤鼻という非現実的・象徴的手法が用いられた。一本の線で目を描き,鼻は単純な鉤形としながらそこに微妙なニュアンスを持たせ,さまざまな表情を見るものに感じさせるというものである。…

【源氏物語絵巻】より

…画家は登場人物の複雑な心理や情趣深い背景をいかに造形化するかに意を尽くし,粗い下描線で図取りした上を顔料で厚く塗り込め,最後に細く鋭い線で描きおこす作絵(つくりえ)の技法を最大限に活用している。画面の緻密に計算された有機的構図が各場面の詩的な情趣を象徴的に表現するとともに,引目鉤鼻(ひきめかぎばな)と呼ばれる類型化した面貌描写も,実際には細緊な筆線を引き重ねることによって人物の微妙な心理を表出しえている。絵の作者は12世紀中期に活躍した宮廷画家藤原隆能(たかよし)と伝えられ,この絵巻も隆能源氏として親しまれてきた。…

※「引目鉤鼻」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

潮力発電

潮の干満の差の大きい所で、満潮時に蓄えた海水を干潮時に放流し、水力発電と同じ原理でタービンを回す発電方式。潮汐ちょうせき発電。...

潮力発電の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android