朝日日本歴史人物事典 「備前屋権兵衛」の解説
備前屋権兵衛
江戸中期の大坂の有力米商人。堂島米市場における先物取引の案出者と伝えられる。17世紀後半以降大坂では諸藩の蔵屋敷が年貢米を大量に販売し,これを買い受けた米仲買たちは,米市場をつくってこれを転々売買していた。売買は蔵屋敷が米買い受け人に発行した米切手(1枚10石)の授受という形で行われていたが,米切手売買は事実上,米の延売買となっていた。ところが,享保期の初めごろから米価が低落するようになり,米切手を買持すれば,米価の値下がりによる損失をこうむることになったから,いきおい米切手売買は沈滞し,これがさらに米価の低落に拍車をかけることになった。この状況下で,権兵衛は柴屋長左衛門とはかり,「売買繋商内」という方法を案出した。建物米を設け,その建物について同業者が一定の敷銀を納めて,一定の期限内の先物取引を行い,期日に売買差金の決済を行うというものであった。この先物取引は繁盛したが,その後米価が騰貴するにおよび幕府はこれを禁止した。しかし,その後再び米価が低下すると,幕府は享保15(1730)年,「帳合米商内」としてこの売買法を公認するに至り,ここに堂島米会所は世界最初の先物取引機構を有する商品取引所として確立することになった。この意味で,権兵衛は先物取引の創始者ということができる。
(宮本又郎)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報