…戦争の悲劇や反戦の思想を描いたヒューマニズム映画(《陸軍》1944,《日本の悲劇》1953,《二十四の瞳》1954)からロマンティック・コメディ(《お嬢さん乾杯》1949,《カルメン故郷に帰る》1951,《今年の恋》1962)に至るまで,多種多様の主題と傾向の映画をこなすが,その底に共通する二つの大きな特質は〈抒情〉と〈モダニズム〉ということばでしばしば呼ばれるものである。戦後最大の〈催涙映画〉といわれた《二十四の瞳》から《喜びも悲しみも幾歳月》(1957)に至る抒情と感傷,そして,日本最初の国産カラー(フジカラー)による長編劇映画の実験(《カルメン故郷に帰る》),〈純情す〉という新しいことばの使い方にこめられたモダンな感覚(《カルメン純情す》1952),回想シーンをすべて白くぼかした楕円形で囲む試み(《野菊の如き君なりき》1955),歌舞伎の舞台の転換や義太夫,長唄を使った話法(《楢山節考》1958),モノクロを基調にした画面に効果的にほんの一部分だけ着色したパート・カラー方式(《笛吹川》1960)等々のさまざまな新趣向のテクニックを駆使した。島崎藤村原作《破戒》(1948),女子学院の教育を告発した《女の園》(1954)といった社会的なテーマを強く打ち出したドラマもあり,つねに時代の動きに敏感に反応した映画作家であった。…
※「喜びも悲しみも幾歳月」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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