( 1 )近世、④の意としては別に「しくみ(しぐみ)」があり、「移変る芝居の噂、狂言のうまひ仕組(しぐみ)を実(まこと)に見なし」(浮世草子・好色一代女‐四)などのように、「仕組」と表記されていた。明治期でも坪内逍遙の「当世書生気質‐七」に「本編は全編の脚色(しくみ)に必要なるがために」とあるように、「しくみ」の表記として「脚色」が用いられることもあった。
( 2 )漢語由来の「脚色」を呉音読みした「きゃくしき」も明治初期まで用いられ、逍遙の「小説神髄」では「きゃくしき」が多用されている。一般に漢音で「きゃくしょく」と読むようになるのは明治後期からか。→「きゃくほん(脚本)」の語誌
中国では,もともと宋代には個人の履歴を意味する用例があるが,伝統演劇のなかで登場人物の性別,年齢,身分,性格などによって類型的に分けた役柄をさす。生旦浄丑(せいたんじようちゆう)の四つの役柄がもっとも典型的で,それぞれ特徴ある演技がなされる。
日本では,江戸時代,歌舞伎の上演に当たり,作者が狂言(作品)を作成することを〈仕組(しぐ)む〉といった。戯作者の中国趣味から,これに〈脚色〉の文字をあてたため,〈脚色〉は〈狂言を仕組むこと〉,あるいは〈狂言の仕組み〉の意味で使われた。《一夜付脚色正本(いちやづけしぐみのたねほん)》(三亭春馬作,1859刊),《脚色余録(きやくしよくよろく)》(西沢一鳳著),《許多脚色帖(あまたきやくしよくぢよう)》(吉野五雲収集,浜松歌国他編)などの書名における〈脚色〉はこの意味で命名されている。〈脚色(しぐみ)〉の原拠となるのは,事実,噂話,小説,講釈,人情噺など,さまざまな分野があった。江戸中期までの狂言作者は小説や講釈からの脚色を嫌い,歌舞伎狂言の自立性を主張していた。しかし,文化以後幕末になると,山東京伝の読本(《昔話稲妻表紙》),曲亭馬琴の読本(《南総里見八犬伝》),感和亭鬼武の読本(《自来也説話》),柳下亭種員(りゆうかていたねかず)の合巻(《しらぬひ譚》)などのほか,乾坤坊良斎(けんこんぼうりようさい),松林伯円(しようりんはくえん)の講釈,三遊亭円朝の人情噺などの脚色上演が盛んに行われるようになった。明治期には新聞小説の脚色が流行した。現代では,小説や随筆からの脚色にとどまらず,映画やテレビのドラマも影響しあい,脚色されている。
執筆者:服部 幸雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
物語、小説などを原作にして演劇、映画、放送用にドラマ化すること。アダプテーション(アダプト)adaptationと同じで、原作のないオリジナル物に対し、脚色されたものは脚色物とよばれる。本来は中国元(げん)代の雑劇における俳優の役柄(扮装(ふんそう))をさしたが、日本では江戸時代に歌舞伎(かぶき)の仕組(しくみ)と同義に用いられ、作者がくふうした脚本の筋、趣向をいった。これは文化(ぶんか)期(1804~18)に京坂で始まり、江戸でも天保(てんぽう)期(1830~44)から読本(よみほん)、講談、人情噺(ばなし)などを脚色するようになり、1877年(明治10)ころからは新聞連載の評判小説の劇化も盛んになった。
[大島 勉]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
… 日本では,江戸時代,歌舞伎の上演に当たり,作者が狂言(作品)を作成することを〈仕組(しぐ)む〉といった。戯作者の中国趣味から,これに〈脚色〉の文字をあてたため,〈脚色〉は〈狂言を仕組むこと〉,あるいは〈狂言の仕組み〉の意味で使われた。《一夜付脚色正本(いちやづけしぐみのたねほん)》(三亭春馬作,1859刊),《脚色余録(きやくしよくよろく)》(西沢一鳳著),《許多脚色帖(あまたきやくしよくぢよう)》(吉野五雲収集,浜松歌国他編)などの書名における〈脚色〉はこの意味で命名されている。…
…中国の伝統的演劇では,人物の性別・身分・性格などによって類型的に分けられた役柄を〈脚色〉というが,その代表的なもの。生は男役,旦は女役,浄は敵役で時に道化味を帯びるもの,または特異な性格をもつ豪傑的人物,丑は道化役,または小悪人的人物を指す。…
…クラシックの楽曲を軽音楽化するなど,既存の楽曲に依拠しつつも,これを変形する編曲も二次的著作物の作成に該当する。絵画を彫刻にしたり,彫刻を絵画のかたちで表すなど,既存の著作物を他の表現形式をもって表す変形も,既存の著作物を脚色したり,映画化するなどの翻案も二次的著作物の作成となる。文語体で表された著作物を口語体に改めたり,大人向きの著作物を子供向きに書き換えることも,学術書などのダイジェストを作成することも翻案となる。…
※「脚色」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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