作曲(読み)サッキョク(英語表記)composition

翻訳|composition

デジタル大辞泉 「作曲」の意味・読み・例文・類語

さっ‐きょく〔サク‐〕【作曲】

[名](スル)楽曲を創作すること。また、詩歌・戯曲などに節や旋律をつけること。「交響曲作曲する」「ゲーテの詩に作曲してみる」

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精選版 日本国語大辞典 「作曲」の意味・読み・例文・類語

さっ‐きょくサク‥【作曲】

  1. 〘 名詞 〙 さまざまな音を組み合わせて楽曲を創作すること。また、歌詞に節(ふし)、旋律をつけること。
    1. [初出の実例]「云はば校歌といった様な性質の一歌詞を作りそして作曲した」(出典:雲は天才である(1906)〈石川啄木〉一)

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改訂新版 世界大百科事典 「作曲」の意味・わかりやすい解説

作曲 (さっきょく)
composition

音楽作品を創造すること。

語源のcompositio(ラテン語)は〈いっしょに置くこと〉〈組合せ〉などの意で,作曲とは本来,音や声部などの種々の音楽要素を,その法則と論理に従ってさまざまに組み合わせることである。西洋諸語におけるコンポジションには,作曲されたもの(作品)の意味もある。

 作曲はまず,作曲者が推敲を重ねて作品として楽譜に定着させる過程をさす。ルネサンスの理論家ティンクトリスJohannes Tinctoris(1435ころ-1511)は,ポリフォニーに関して,固定された作品を〈成されたものresfacta〉と定義し,これに〈作曲するcomponere〉の語を限定し,当時の即興対位法による歌唱法super librum cantareと区別した(1477)。演奏者に作品の最終的完成をゆだねるという点では,バロックの通奏低音法や20世紀の偶然性(不確定性)の音楽も後者に含まれる。しかし即興演奏は,作品としてのあり方に問題があるとはいえ,ある意味では演奏であると同時に作曲でもある。

 作曲の歴史は,社会,政治,文化,科学などの変遷を背景として,音楽の思想,理論(記譜法を含む),演奏の歴史と密接にかかわり合っている。それは各時代の理想的音楽像・音楽家像・音響像に応じて時代の要請を満足させる一方で,素材と表現の可能性を追求しながら,断続的にであれ革新性と独創性を求めてきた歴史でもある。作曲は中世においては,何よりも単旋律聖歌を作ることであり,旋法体系が理論的基盤となった(教会旋法)。また〈自由七科〉としての音楽にあって,学問と思索の対象でもあった。ポリフォニーの技法とそれに伴うリズム法,対位法が成立・発展していった中世後期からルネサンスにかけては,人文思想の興隆とキリスト教会の絶対的権威の衰えに呼応して,世俗声楽曲や器楽の作曲へも関心が向けられた。ルネサンスでは,かつては無名の行為であった作曲が,しだいに創作者個人の独創性においてとらえられるようになった。

 またバロックに至るルター派神学の伝統では,音楽と言葉との関係を修辞学の原理からとらえなおす〈音楽創作論(ムシカ・ポエティカmusica poetica)〉が唱えられた。バロックでは単旋律的思考の復興(モノディ)と伝統的対位法との相克の止揚を経てラモーの《和声論》(1722)によって近代的な和声法が成立し,さらに通奏低音法,様式論,演奏論などが作曲の前提とされた(和声)。18世紀古典派では作曲は特定個人の創造行為として認められ,天才,芸術家の概念が生まれた。

 純粋器楽における種々の近代的語法や形式が成立し,末期には形式論が作曲教程に組み入れられ始めた。ロマン派は半音階和声法の出現,楽器改良や近代的管弦楽団の発展に伴う楽器法,管弦楽法への関心を特徴とする一方,音楽の自律性と他芸術との関連が絶対音楽標題音楽の対概念でとらえられた。20世紀は理論が先行する時代である。十二音技法(十二音音楽)やセリー(音列)技法に代表されるように音楽の自律的・構造的契機が強調される一方,電子音楽ミュジック・コンクレートにおける非楽音素材の導入,さらに〈偶然性の音楽〉,環境音楽など音楽のあり方そのものの根本的変革を特徴とする。
執筆者:

〈作曲〉という言葉はヨーロッパ諸語からの訳語として明治初期以来使われるようになり,用語が定着するにつれ,概念もヨーロッパ風に変化していった。それ以前から伝統的に用いられていた言葉として〈節付〉〈手付〉があるが,その基本的な概念は歌詞に〈(ふし)〉を付けたり,さらに楽器奏法としての〈手〉を付けるというように様式的に拡大していくことが眼目となっている。その延長上には〈振付〉をして舞踊にまでひろげる場合も含まれている。他の類語としては〈作調〉〈調〉があげられる。いずれにしても歌詞をうたいあげたり,楽器による旋律を美しいものにするといったニュアンスがこめられている。

 日本音楽の作曲上のおもな慣習といえるのは,一定のパターンおよびその変形をさまざまに組み立てて,自然な音楽の流れを感じさせようとする行為である。そしてパターンには写実的技法や約束ごとによる川,遊里,雪,楽,虫といった連想される意味内容が備わっていることもある。

近代ヨーロッパのように作曲と演奏をはっきり分けるのは人類の音楽文化全体の中で例外的である。多くの場合,曲想を考えながら(作曲しながら)同時に演奏する形をとり,その典型的な例は即興演奏に見ることができる。代々伝えられてきた楽曲をほぼそのまま演奏する,即興性の低い演奏形式もあるが,そういう場合でもその曲の由来を歴史上の個人に帰する場合は少ない。数少ない例としては,インドのティヤーガラージャTyāgarāja(1767-1847)のように作曲家として個人の名が残っていることもある。量的にはるかに多いのは,同時代または時代をこえて集団により作曲された場合で,当然個人の作曲家は問題とされない。諸民族の民謡はほぼこれに相当する。理論的な裏づけをもつアラブイランペルシア),インド,インドネシアジャワ,バリ)などの芸術音楽の場合にも集団創作と解釈される旋律型の宝庫があり,演奏は全面的にそれらの旋律型を基礎として行われる。また,オセアニアやアメリカ・インディアンなどの多くの社会でのフォークロアとしての音楽の場合,ジャンルごとに旋律型がほぼ固定していて,新しい曲の創作はその旋律型に沿うように歌詞を新作することを意味する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「作曲」の意味・わかりやすい解説

作曲
さっきょく

音およびその運用を組織化し、なんらかの方法で定着させる行為。そのあり方は、社会や文化、また時代によってさまざまである。

 欧米では一般に、音楽作品を書かれた形でつくりだすこと、およびその作品を意味する語としてラテン語のcomponere(組み立てる、寄せ集める)に由来する語が用いられている(英語でcomposition、ドイツ語でKompositionなど)。日本でも、西洋音楽について作曲といった場合、この意味で用いられることが多い。しかし西欧でも、これらの語が今日のような意味を担うようになったのは、18世紀のオーケストラ・スコア(総譜)の出現以降である。

 ヨーロッパの現代語のなかで、このラテン語起源の語が最初に現れたのはイタリア語であるが、そこでは、書かれた詩などを、音楽的に処理する前に考察する過程をさして用いられた。その後、ルネサンスの理論家ティンクトリスは1477年に、ポリフォニーの固定された作品に関して動詞componereを用い、また理論家ウォリックも1501年に、名詞のcompositioを、即興的対位法と区別して、書かれたポリフォニーに対して用いている。こうして、演奏者にかなりの余地を残しながらも、音楽を書き記すことが、作曲の重要な側面として強調されるようになる。そしてこの時期には、しだいに作曲家個人の個性、独創性が重視されるようになってくる。バロック音楽では、ラモーの『和声論』(1722)によって近代的な和声法が確立し、ますます書くという行為が作曲の中心的位置を占めるようになるが、なお通奏低音法のように、演奏者にゆだねられている部分は大きい。18世紀の古典派では、個人の創造行為としての作曲概念が確立された。

 ヨーロッパの作曲の歴史は、「作曲」「演奏」「享受」の区分が明確化し、作曲家の存在が強調されていく歴史であったともいえる。しかし、偶然性の音楽や環境音楽などの出現により、書かれたものの規定性が希薄となり、その結果、18世紀以来一般化した作曲と演奏の区別も問い直されることになった。いかに記譜法が発達していても、作曲と演奏をまったく切り離してしまうことはできない。

 この点については、西洋以外の音楽から示唆を得ることも多い。日本音楽においては、伝統的に「節付け」「手付け」ということばが用いられてきた。これは、歌詞に「節」を付けたり、「手」(楽器の奏法)を付けたりすることである。そこでは、ある程度決まったパターンを組み合わせていく行為が中心となっている。これらのパターンは当然のことながら、楽器の演奏技法と密接に関係しており、また、なかには、写実的技法や約束ごとにより、なんらかの意味を付与されたものもある。そして多くの場合、記譜法をもっているけれども、作曲と演奏の区分は明確とはいえない。

 それでも、日本音楽では作曲の規定性が高く、演奏の即興性は低い。これは楽譜および唱歌(しょうか)の存在によるところが大きい。これに対して、日本の民謡や、その他多くの民族の音楽の大半は、伝統的に楽譜をもたず、個人の作曲家が重要視されることもない。そこでは、たとえばインドネシアのガムラン音楽にみられるような、集団創作と考えられる基本旋律のストックが共有されていて、演奏はそれをもとにして行われる場合や、伝承されてきた旋律型をほとんど変更せず、それに新しい歌詞をつける行為が作曲とみなしうるような例(オセアニアの大半)がみられる。

 このように、欧米と違い、個人の作曲家が問題にされず、作曲という行為が職業とならない社会においては、その社会全体で、あるいは音楽の創作・演奏にかかわる人々の間で共有される理論の存在が、ヨーロッパ近代の作曲と同様に重要な役割を果たしていることは、もっと注目されねばならない。たとえば、ボルネオ島のプナン人においては、人々の日常のさまざまな言語運用の韻律的側面を規定する諸規則の一部が、より明確化された形で、新しいうたの創作を規定している。そこでは、一部の人だけが創作にかかわり、特定の作曲家=演奏家の名が言及されることもあるが、うたの全体もしくは一部が伝承されることはなく、個人名もやがては忘れられる。一方、パプア・ニューギニアのカルリ人の社会においては、原則としてすべての成人男性が理論を共有し、創作を行う。また、マレーシアのテミアル人やアメリカ・インディアンの多くにおいては、夢のなかで得た旋律型が創作の基本となる。これを得ることができた人が、作曲家的な存在として位置づけられるのである。このように、たいていの社会は、なんらかの形で創作を規定する、あるいは方向づける枠組みをもっており、作曲にあたる行為は演奏と不可分のものである。また、作曲家にあたる人々の、社会のなかでの役割、位置づけはさまざまである。ヨーロッパ近代に確立された現在一般的な作曲概念は、今日、より広い視野から再定義されつつあるといえよう。

[卜田隆嗣]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「作曲」の意味・わかりやすい解説

作曲
さっきょく
composition

日本の伝統音楽では,雅楽,尺八音楽,箏曲などを除いてその大部分が声楽曲であるために,「歌詞に節をつける」という意味が強く,作曲の自律性は軽んじられてきた。器楽にしても既成の旋律型に手を加える作業が作曲であり,これは常に演奏者も参加した。インド,中国,イスラム圏においてもこの傾向が主流をなし,また,世界的にみても,音楽は「神から授かるもの」として人々が即興的に作曲する場合が多い。西欧においても,「作曲活動」はラテン語の componere (組立てる) に由来し,元来は既存の定旋律に対位声部を付加することを意味した。しかしルネサンス以来次第に作曲者の創造性が自覚されるようになり,ついに作曲は創作者の個性の全人格的表現とみなされるようになった。このような作曲態度を一般とする現今の作曲行為の過程は,芸術家の表出衝動に,音によって永続的作品としての形式を与える全人的な努力であるが,前衛作品にあっては,その過程を一部機械に,あるいは演奏者や聴衆にゆだねる傾向がある。

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普及版 字通 「作曲」の読み・字形・画数・意味

【作曲】さくきよく

曲譜作り。

字通「作」の項目を見る

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