精選版 日本国語大辞典 「作曲」の意味・読み・例文・類語
さっ‐きょく サク‥【作曲】
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音およびその運用を組織化し、なんらかの方法で定着させる行為。そのあり方は、社会や文化、また時代によってさまざまである。
欧米では一般に、音楽作品を書かれた形でつくりだすこと、およびその作品を意味する語としてラテン語のcomponere(組み立てる、寄せ集める)に由来する語が用いられている(英語でcomposition、ドイツ語でKompositionなど)。日本でも、西洋音楽について作曲といった場合、この意味で用いられることが多い。しかし西欧でも、これらの語が今日のような意味を担うようになったのは、18世紀のオーケストラ・スコア(総譜)の出現以降である。
ヨーロッパの現代語のなかで、このラテン語起源の語が最初に現れたのはイタリア語であるが、そこでは、書かれた詩などを、音楽的に処理する前に考察する過程をさして用いられた。その後、ルネサンスの理論家ティンクトリスは1477年に、ポリフォニーの固定された作品に関して動詞componereを用い、また理論家ウォリックも1501年に、名詞のcompositioを、即興的対位法と区別して、書かれたポリフォニーに対して用いている。こうして、演奏者にかなりの余地を残しながらも、音楽を書き記すことが、作曲の重要な側面として強調されるようになる。そしてこの時期には、しだいに作曲家個人の個性、独創性が重視されるようになってくる。バロック音楽では、ラモーの『和声論』(1722)によって近代的な和声法が確立し、ますます書くという行為が作曲の中心的位置を占めるようになるが、なお通奏低音法のように、演奏者にゆだねられている部分は大きい。18世紀の古典派では、個人の創造行為としての作曲概念が確立された。
ヨーロッパの作曲の歴史は、「作曲」「演奏」「享受」の区分が明確化し、作曲家の存在が強調されていく歴史であったともいえる。しかし、偶然性の音楽や環境音楽などの出現により、書かれたものの規定性が希薄となり、その結果、18世紀以来一般化した作曲と演奏の区別も問い直されることになった。いかに記譜法が発達していても、作曲と演奏をまったく切り離してしまうことはできない。
この点については、西洋以外の音楽から示唆を得ることも多い。日本音楽においては、伝統的に「節付け」「手付け」ということばが用いられてきた。これは、歌詞に「節」を付けたり、「手」(楽器の奏法)を付けたりすることである。そこでは、ある程度決まったパターンを組み合わせていく行為が中心となっている。これらのパターンは当然のことながら、楽器の演奏技法と密接に関係しており、また、なかには、写実的技法や約束ごとにより、なんらかの意味を付与されたものもある。そして多くの場合、記譜法をもっているけれども、作曲と演奏の区分は明確とはいえない。
それでも、日本音楽では作曲の規定性が高く、演奏の即興性は低い。これは楽譜および唱歌(しょうか)の存在によるところが大きい。これに対して、日本の民謡や、その他多くの民族の音楽の大半は、伝統的に楽譜をもたず、個人の作曲家が重要視されることもない。そこでは、たとえばインドネシアのガムラン音楽にみられるような、集団創作と考えられる基本旋律のストックが共有されていて、演奏はそれをもとにして行われる場合や、伝承されてきた旋律型をほとんど変更せず、それに新しい歌詞をつける行為が作曲とみなしうるような例(オセアニアの大半)がみられる。
このように、欧米と違い、個人の作曲家が問題にされず、作曲という行為が職業とならない社会においては、その社会全体で、あるいは音楽の創作・演奏にかかわる人々の間で共有される理論の存在が、ヨーロッパ近代の作曲と同様に重要な役割を果たしていることは、もっと注目されねばならない。たとえば、ボルネオ島のプナン人においては、人々の日常のさまざまな言語運用の韻律的側面を規定する諸規則の一部が、より明確化された形で、新しいうたの創作を規定している。そこでは、一部の人だけが創作にかかわり、特定の作曲家=演奏家の名が言及されることもあるが、うたの全体もしくは一部が伝承されることはなく、個人名もやがては忘れられる。一方、パプア・ニューギニアのカルリ人の社会においては、原則としてすべての成人男性が理論を共有し、創作を行う。また、マレーシアのテミアル人やアメリカ・インディアンの多くにおいては、夢のなかで得た旋律型が創作の基本となる。これを得ることができた人が、作曲家的な存在として位置づけられるのである。このように、たいていの社会は、なんらかの形で創作を規定する、あるいは方向づける枠組みをもっており、作曲にあたる行為は演奏と不可分のものである。また、作曲家にあたる人々の、社会のなかでの役割、位置づけはさまざまである。ヨーロッパ近代に確立された現在一般的な作曲概念は、今日、より広い視野から再定義されつつあるといえよう。
[卜田隆嗣]
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