大学事典 「地域学」の解説
地域学
ちいきがく
人の住まう地域空間に潜在する価値観や歴史を,住人本位の期待と記憶として再生し,地域の活性化を促す学問的アプローチ。その一義的な定義は難しい。しかし戦時政府の政策と連動して発展した総合的な地域研究(area study)とも,また開発の対象としての特定地域の科学的・経済学的な総合的把握としての地域研究(regional science)とも,明瞭な一線を画する。対象化した地域を科学的な知識・方法を動員して研究するのが主眼ではなく,人々が固有な歴史と生活習慣とを半ば無意識に共有しつつ住まう空間を,土地と人が織りなす共同体として心と体で感じ取り(高谷好一『地域学の構築』2004年),住人の観点から再構成して地域の固有な意義の再確認を手助けすることを目指す。近代大学が専有し特権化した学術研究施設や学問的な方法論に挑戦し,大学と社会との関係を逆転する可能性を持つアプローチである。その背景には,20世紀の後半から顕著となった,科学の絶対性に対する信頼の揺らぎと,地域ごとの固有な共同体生活を踏みにじりかねない現在のグローバル化への危惧がある。
著者: 立川明
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報