改訂新版 世界大百科事典 「大綿津見神」の意味・わかりやすい解説
大綿津見神 (おおわたつみのかみ)
日本神話にみえる神の名。ワタは海,ワタツミとは海の霊を意味する。ワタの語源はさだかではないが,うみ,うなばらなどが自然としての海を想起させるのに対し,霊的なもののすみかとしての海を意味するようである。ワタツミノカミをまつる神社はいくつかあるが,とくにオオワタツミノカミとは,海底の宮殿に住み,海の幸また農の水を支配する神格として記紀の海幸・山幸の話に登場する神を指す。兄の海幸彦に借りた釣針を失った山幸彦(瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)の子)が,針を求めて訪れたのが綿津見の宮であった。ヤマサチはここでオオワタツミの女豊玉姫(とよたまひめ)をめとり,同神の助力で釣針をとりもどす。さらに,水を支配する呪力をもつ玉を授かり,意地悪な兄の田を水びたしにしてこれをこらしめるが,この話は,オオワタツミが農の水を支配すると信じられていたことを示している。またその女との結婚は,豊饒を招来するための天津神(あまつかみ)と国津神(くにつかみ)の聖婚を意味する。
執筆者:倉塚 曄子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報