日本神話にみえる神の名。《古事記》では邇邇芸命と記す。種々の異なった名称をもつが基本はホノニニギノミコト。〈ホ〉は稲穂,ニニギはニギヤカ,ニギワウの〈ニギ〉を重ねた語で,稲穂が豊かに実ることを予祝してつけた名称。《古事記》によると,大国主の国譲りを受けた天照大神(あまてらすおおかみ)は天忍穂耳(あめのおしほみみ)命を高天原(たかまがはら)から降臨させようとするが,オシホミミがその用意をしているうちに子が生まれる。いわゆる〈天孫〉の誕生で,これがニニギノミコトである。そこでアマテラスはこのニニギを天降(あまくだ)らせることになる(天孫降臨神話)。《日本書紀》の一書では,ニニギはオシホミミが天降る途中の天空で生まれ,オシホミミに代わって降ったとある。ニニギが降臨することになったのは,王たる者は新たに生まれる者でなくてはならないという観念の表れであった。このことと関連するのが《日本書紀》本文にある,高皇産霊(たかみむすひ)尊がニニギを真床追衾(まとこおふすま)なるもので覆って天降らせたという記述である。真床追衾は大嘗祭(だいじようさい)の儀式で天皇がふす衾と関係する。宮廷では11月の卯の日に大嘗殿で新しい天子となるための秘儀がとり行われるが,その際に新王は〈天の羽衣〉なるものを着て湯浴みした後に,悠紀(ゆき)・主基(すき)正殿で新穀を食して神座に設けた衾(寝具)にふすという(《西宮記》《江家次第》)。これは天の羽衣を着て天上の身分となった王が羊膜に包まれた嬰児として再誕し地上に来臨することの模擬行為と考えられる。ニニギが生まれたての子として,また衾にくるまって降臨したのはこうした儀礼の神話的表現であった。ニニギは新しい王たるものの神話的原型であり,この新王の誕生とともに,それまで未開の地であった葦原中国(あしはらのなかつくに)は天孫の統治する地にふさわしい五穀豊穣の〈水穂国(みずほのくに)〉へと呪的に転化される。ホノニニギノミコトとは,穀霊を体現して水穂国を支配する王としての名称であり,その降臨した地は日向(ひむか)の〈高千穂〉であったとされる。
執筆者:武藤 武美
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天照大神(あまてらすおおみかみ)の子の天忍穂耳尊(あめのおしほみみのみこと)が高皇産霊神(たかみむすびのかみ)の女(むすめ)である栲幡千千姫(たくはたちぢひめ)(記、萬幡豊秋津師比売命(よろずはたとよあきづしひめのみこと))をめとって生まれた子で、稲穂の豊饒(ほうじょう)を示す穀霊神。天孫降臨神話、木花開耶姫(このはなさくやひめ)の神話、火中出産神話の主人公だが、このうちで木花開耶姫の神話は、降臨した尊を笠狭崎(かささのみさき)で迎えた鹿葦津(かしつ)姫(吾田津姫(あたつひめ)ともいう)との聖婚のあとに挿入した別話である。火中出産神話は、聖婚によってはらんだ御子(みこ)を国神(くにつかみ)の子と疑われた鹿葦津姫が、天神(あまつかみ)の子ならば災いなしと誓約(うけい)をたてて、彦火火出見尊(ひこほほでみのみこと)(海幸(うみさち)・山幸(やまさち)神話の主人公)以下の子を無戸室(うつむろ)の産屋(うぶや)を焼き火中で出産する神話である。
[吉井 巖]
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(吉田敦彦)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報
「古事記」では邇邇芸命。天津彦彦火(あまつひこひこほ)邇邇杵尊・天津彦根火(あまつひこねほ)瓊瓊杵根尊などとも。天孫降臨神話で葦原中国(あしはらのなかつくに)に降臨する神。名の核となるホノニニギは稲穂の豊饒を意味する。降臨後にコノハナサクヤヒメを妻とし,ホノスソリ・ヒコホホデミらを生む。「日本書紀」では真床追衾(まどこおぶすま)にくるまれて降り,「古事記」では父アメノオシホミミにかわって誕生直後に降されたとあるように,ともに嬰児の姿で降ったと考えられるが,それは穀霊の新生を表すものであった。なお真床追衾の存在から大嘗(だいじょう)祭の起源説話とする説もある。
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出典 旺文社日本史事典 三訂版旺文社日本史事典 三訂版について 情報
…《古事記》では木花之佐久夜毘売と記す。記紀の伝承によると,日向の高千穂の峰に天降った瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)は大山祇神(おおやまつみのかみ)の2人の娘と婚することとなるが,姉の磐長姫(いわながひめ)は顔が醜いので送り返し,妹のサクヤビメとだけ床を共にする。天皇の生命が木の花のようにはかないのはこのためだという。…
…日本神話にみえる神話上の地名。記紀神話で瓊瓊杵(ににぎ)尊(ホノニニギノミコト)が天降(あまくだ)ったという峰。また高く秀でた山,あるいは豊かな稲穂の山の意の普通名詞でもある。…
※「瓊瓊杵尊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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