内科学 第10版 「失神の病態生理」の解説
失神の病態生理(失神)
反射性失神の臨床像についてはすでに述べたが,本失神は一般に予後良好であり,失神をベッドサイドで再現することができなかったため,1985年頃までは詳細な検討がなされてこなかった.1986年にKennyらは反射性失神患者で長時間のhead-up tiltを行い【⇨15-4-5)-(1)】,tilt開始30分前後に過半数の症例で失神発作の再現に成功した.その後もhead-up tiltについて詳細な検討が行われており,Shenらは60~70度の角度のtiltで再現性が高く,平均25分前後で失神発作を起こし得ると報告している.さらにAlmquistらは,tiltとイソプロテレノール(isoproterenol)静注の併用により失神誘発までの時間が短縮されることを報告し,この失神を神経調節性失神(neurally mediated syncope)(水牧,2012)と呼称した.神経調節性失神は血管迷走神経性失神のベッドサイドにおける再現モデルと考えられるが,その研究から得られた知見は頸動脈洞失神,状況失神にも該当し,反射性失神の多くは本質的に同一の機序で生じている可能性がある(田村ら,1995). その後の多くの研究により,神経調節性失神では,起立による交感神経系の賦活が過剰に生じて心機能が亢進し,その結果,左心室内のmechanoreceptorからの迷走神経求心線維を介する脳幹部自律神経諸核への上行性インパルスが発射され,迷走神経遠心路の賦活と交感神経の抑制が生じる(Bezold-Jarisch反射)と推測されている(田村ら,1995).しかし,神経調節性失神は健常人にはみられず,限られた症例のみに誘発可能であり,何らかの器質的な自律神経障害を背景に出現する病態と考える(田村ら,1995)ほうが,理解しやすい.[荒木信夫]
■文献
荒木信夫:失神発作.医学のあゆみ,200: 1169-1170, 2002.
水牧功一:神経調節性失神.Brain Medical, 24: 183-190, 2012.
中里良彦,他:失神発作.NanoGIGA, 3: 260-263, 1994.
田村直俊,他:失神.Clinical Neuroscience, 13: 234-235, 1995.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報