宛行・充行(読み)あてがう

精選版 日本国語大辞典 「宛行・充行」の意味・読み・例文・類語

あてが・う あてがふ【宛行・充行】

〘他ワ五(ハ四)〙
① 割り当てて与える。分配する。また、相手の要求によらないで、適当に見積もって与える。
(イ) 場所、品物、金銭などを与える。また、人を先方にさしむける。
※栄花(1028‐92頃)玉の飾「宮の御装束、女房の事などしげうおぼしあてがう」
愚管抄(1220)七「数しらずをさなき宮々、法師法師にと、師共のもとへあてがはるめり」
(ロ) 役目、仕事、任務などをきめて与える。
※天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事「セメテ ノウニンノ ショサヲ ナリトモ ategauǒzuto(アテガワウズト) ヲモイ サダメ」
※浮世草子・西鶴織留(1694)四「殊更むつかしき病生(びゃうしゃう)あてがはれ、すいりゃうの療治をする」
(ハ) 相手として適当と考えて異性を連れ添わせる。
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「早く相応な者を宛(アテ)がって初孫の顔を見度(みたい)とおもふは親の私としてもかうなれど」
② 適当なものとしてさしあてる。うまくあてはめる。また、あれこれ考えあわせて、それと決める。
※米沢本沙石集(1283)一〇本「物たくはへ利分して百年の用意して遁世の身とならんなと愚なる人はあてかふにや」
こんてむつすむん地(1610)一「なにたるさいはいをも人にあてがはず」
③ ある物を何かに、ぴったりと当ててくっつける。
※虎明本狂言・麻生(室町末‐近世初)「よひ比のてぎをあたまへあてがう程に」
※あひゞき(1888)〈二葉亭四迷訳〉「眼鏡外套の隠袋から取り出して、眼へ宛がはふとしてみた」

あてがい あてがひ【宛行・充行】

[1] 〘名〙 (動詞「あてがう(宛行)」の連用形の名詞化)
① 割り当てて与えること。また、相手の要求によらないで、適当に見積もって与えること。また、そのもの。
(イ) 品物、食物などを適当に与えること。また、そのもの。
※信長公記(1598)一五「在陣中兵粮つづき候様に、あてがい簡要に候」
(ロ) ある状態にしてやること。ある状態が与えられること。また、その状態。
※雑俳・軽口頓作(1709)「めいようじゃ・産むとたる乳はおあてがひ」
(ハ) 所領俸祿などを与えること。あておこない。近世では領主から家臣へ下給される知行扶持、また、雇い主から雇い人へ渡される手当て岡山藩や日本海側の諸藩では、貧しい武士に与えた、生活保障的な暫定的祿をいう。
※仮名草子・清水物語(1638)上「賢人をもとむるには、よくふかき小人のあてかいにてはちかよらす」
② 心をくばること。配慮。とりはからい。
風姿花伝(1400‐02頃)二「これ上方の御目に見ゆべからず。若見えば、余りに賤しくて、面白き所あるべからず。此あてがひを能々(よくよく)心得べし」
[2] 〘接尾〙 数量を表わす語に添えて、それだけの数量のものを割り当てる意を表わす。
※甲陽軍鑑(17C初)品三二「越後衆、陣の時、一人に三人あてがひに、朝食を調させをき候」

あて‐おこな・う ‥おこなふ【宛行・充行】

〘他ハ四〙
① 割り当てて事を行なわせる、または与える。割りふる。
※落窪(10C後)四「内へ参るべき日見せ、とかくせさすべきことあておこなふとても」
② 当てて用いる。充用する。
※太平記(14C後)三三「我崇徳院の御領を落して、軍勢の兵粮料所に充行(アテヲコナヒ)しに依て重病を受けたり」
③ 所領や俸祿を処分し、給与する。特に、荘園のもとで、領主が荘民(作人)などに土地を給与する。田畑、米銭などの財産を門弟、子息に譲与、分配する。また、荘官職(しょうかんしき)、預所職(あずかりしょしき)などの諸職を与える。
※大和春日神社文書‐文治二年(1186)七月八日・大和高田領主等施入状「当庄之内分出田畠三町、所行下司田也」

あて‐おこない ‥おこなひ【宛行・充行】

〘名〙 あておこなうこと。特に、所領や俸祿を処分し、給与することにいう。あてがい。
※財政経済史料‐五・財政・諸費・親族給費・文政元年(1818)一一月「向後何も初清水向之者共男女末々迄、保之丞殿より被下候御宛行、其外公儀より相渡来候分」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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