ふ‐うん【浮雲】
〘名〙
※懐風藻(751)望雪〈
紀古麻呂〉「浮雲靉靆縈
二巖岫
一、驚飈蕭瑟響
二庭林
一」 〔
曹丕‐雑詩〕
② 転じて、空に漂う雲のように定まらないこと、
境遇の定まらないことのたとえ。
※本朝文粋(1060頃)七・法皇賜渤海裴遡書〈
紀長谷雄〉「余栖
二南山之南
一。浮雲不
レ定」
③ はかないこと、不確かで頼りないこと、とりとめのないことのたとえ。
※三教指帰(797頃)中「願浮雲富、聚如泡財」
※
浄瑠璃・狭夜衣鴛鴦剣翅(1739)一「浮雲
(フウン)の富に身をわすれ」
④ 浮かんでいる雲のように自分とは遠く隔たった存在のもの。まったく関係のないもののたとえ。〔
論語‐述而〕
⑤ (雲が太陽を隠すところから) 明らかな判断・悟りの妨げとなるもののたとえ。また、邪悪なこと・
奸臣のたとえ。
※
読本・椿説弓張月(1807‐11)続「君を欺き民を虐、浮雲の驕を極めしかば」 〔古詩十九首‐其一〕
※
明衡往来(11C中か)
上本「件馬長等所為甚以非常也、策
二浮雲
一不
レ執
レ轡」
うき‐ぐも【浮雲】
[1] 〘名〙 (「うきくも」とも)
① 空中に浮かんで漂う雲。
※兼輔集(933頃)「うきくもに身をしなさねばひさかたの月へだつともしられざりけり」
②
物事が落ち着かないで不安定なさまのたとえ。「浮き」と「憂き」をかけて用いられる場合が多い。
※
篁物語(12C後か)「いささめにつけし思ひの煙こそ身をうき雲となりて果てけれ」
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デジタル大辞泉
「浮雲」の意味・読み・例文・類語
うきぐも【浮雲】[書名]
二葉亭四迷の小説。明治20~22年(1887~1889)発表。明治中期の功利主義や官僚制の中で挫折していく青年の姿を、言文一致体で描いたもの。近代写実小説の先駆とされる。
林芙美子の小説。昭和26年(1951)刊。自堕落な男を愛し続ける女の悲劇的な人生を描く。昭和30年(1955)、成瀬巳喜男監督により映画化。出演、高峰秀子、森雅之ほか。第29回キネマ旬報ベストテンの日本映画ベストワン作品。第6回ブルーリボン賞作品賞、第10回毎日映画コンクール日本映画大賞受賞。
ふ‐うん【浮雲】
1 空に浮かんでいる雲。うきぐも。
2 定まらないこと、また、はかなく頼りないことのたとえ。
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うきぐも【浮雲】
二葉亭四迷の長編小説。1887年(明治20)第1編刊,88年第2編刊,89年第3編を《都の花》に連載。官制の改革が行われた86年の東京を舞台に,内海文三と従妹のお勢の相思相愛の関係が,文三が役所を免職になったのち変貌していくありさまを描く。世俗的なお勢の母親はともかく,新時代の教育を身につけたお勢までがなぜ,卑しい出世主義者の本田昇に惹(ひ)かれていくのか,文三にはわからない。異様なものとして現れてきた世界の姿を問い続けながら,文三は孤独のうちに発狂寸前まで追い詰められていく。
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浮雲
うきぐも
二葉亭四迷の長編小説。1887年(明治20)6月に第1編,88年2月に第2編を金港堂から刊行。89年7~8月に第3編を「都の花」に掲載。役所を免職になった主人公内海文三の心の動揺を発端に,出世主義者の同僚本田昇やそれになびく従妹お勢,旧弊で実利的なその母親との心理的葛藤の描写を通して,明治20年当時の浮薄な日本社会への批判が意図されている。未完に終わったが,日本近代小説史上,言文一致体による最初の本格的リアリズム小説とされる。
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浮雲
うきぐも
日本映画。東宝 1955年作品。監督成瀬巳喜男。脚本水木洋子。原作林芙美子。撮影玉井正夫。音楽斎藤一郎。主演森雅之,高峰秀子。第2次世界大戦直後の荒廃した社会を背景に,一女性の不実な男への断ち切れぬ愛を描く。荒涼とした風景と人々の暗鬱な気分とが一体化し一種のニヒリズムとなって漂い,男女の絆が「業」とでも呼べそうな無常感を伴って画面ににじみ出た。成瀬巳喜男の代表的作品。
浮雲
うきぐも
二葉亭四迷の長編小説。第1編 1887年,第2編 88年,第3編 89年刊。下級官吏の内海文三は,自我をかたくなに守ることで職を失い,寄宿先の叔父の家でも孤立,叔父の娘お勢との恋にも破れる。孤独な近代知識人の内面を初めて描き,日本近代小説の先駆となった。また,その清新な言文一致体の文章は後世の国語に大きな影響を与えた。
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浮雲
1955年公開の日本映画。監督:成瀬巳喜男、原作:林芙美子、脚色:水木洋子、撮影:玉井正夫、録音:下永尚。出演:高峰秀子、森雅之、中北千枝子、木村貞子、山形勲、岡田茉莉子、加東大介ほか。第29回キネマ旬報ベスト・テンの日本映画ベスト・ワン作品。第6回ブルーリボン賞作品賞受賞。第10回毎日映画コンクール日本映画大賞、監督賞、録音賞、女優主演賞(高峰秀子)受賞。
浮雲
TBS系列放映による日本の昼帯ドラマ。花王愛の劇場。放映は1976年1月~3月。出演:佐藤オリエ、木村功ほか。
浮雲
日本のポピュラー音楽。歌は女性演歌歌手、香西(こうざい)かおり。1998年発売。作詞:悠木圭子、作曲:鈴木淳。
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普及版 字通
「浮雲」の読み・字形・画数・意味
【浮雲】ふうん
うきぐも。定めなきもの。〔論語、述而〕不義にして富み且つ貴きは、我に於て
雲の如し。字通「浮」の項目を見る。
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浮雲
うきぐも
明治時代,二葉亭四迷の小説
1887〜89年に3編刊。未完。初め坪内逍遙の名を借りて刊行。東京の小市民生活における新旧の人びとの心理を言文一致体で描写し,日本近代写実主義文学の先駆をなす。
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世界大百科事典内の浮雲の言及
【言文一致】より
…当時すでに,かなや,ローマ字の国字主張が盛んで,一方に三遊亭円朝の講談速記がもてはやされており,文章の方面でも同年に矢野文雄の《日本文体文字新論》,末松謙澄の《日本文章論》が出,文芸の上でも坪内逍遥の《小説神髄》など新思潮の動きが活発で,これらの情勢がようやくいわゆる言文一致体の小説を生んだ。1887‐88年ころあいついだ二葉亭四迷の《浮雲》,山田美妙の《夏木立》などがこれである。四迷は模索ののち文末におもに〈だ〉を用い,美妙は〈です〉を用い,おくれて尾崎紅葉は〈である〉によるなど,新文体の創始にそれぞれの苦心がみられる。…
【写実主義】より
…北村透谷が〈写実も到底情熱を根底に置かざれば,写実の為に写実をなすの弊を免れ難し〉(《情熱》)と批判したように,そこには〈情熱〉,つまり外界を見るよりもむしろそれを拒絶するような一種の倒錯的な内面性が欠けていたのである。 一方,ロシア文学に通じており内面的であった二葉亭四迷は,いざ書こうとすると,《浮雲》がそうであるように,実質的に江戸文学(戯作)の文体・リズムに引きずられざるをえなかった。実際に,《浮雲》などより,彼のツルゲーネフの翻訳のほうが,のちの写実主義の文学に影響力をもったといえる。…
【小説】より
…明治の小説は,言葉の向こう側にあるモノやココロの世界,つまりは意味されるものの世界に読者の想像力をふりむける技法を開発しなければならなかったのである。そのもっとも有力な技法の一つは,言文一致体で書かれた二葉亭四迷の《浮雲》における語りの構造である。すなわち,主人公内海文三の内面に入りこむとともに,たえずそれを揶揄(やゆ)する声を響かせる無人称の語り手の存在である。…
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