改訂新版 世界大百科事典 「小子部蜾蠃」の意味・わかりやすい解説
小子部蜾蠃 (ちいさこべのすがる)
《日本書紀》や《日本霊異記》などにみえる雄略天皇の侍臣。その名の〈蜾蠃〉とはジガバチの意。〈蜾蠃〉は〈螟蛉(めいれい)〉(古注では〈桑虫〉)の子をみずからの子として養う,と《詩経》にある。《日本書紀》雄略天皇条によれば,〈蚕(こ)〉を集めよとの命をうけ,誤って〈子〉を集め,養い,〈小子部連(むらじ)〉の姓を賜う。また,三諸岳(みもろのおか)の神を捕らえよとの命により大蛇を捕らえ,〈小子部雷(いかずち)〉と改名した。《弘仁私記》序には〈山雷〉を捕らえたとある。《日本霊異記》は,天の雷を捕らえ,その地を〈雷岡(いかずちのおか)〉と呼んだ,とする。さらに,蜾蠃の死後に彼の墓標に落ちた雷が標柱にはさまって捕らえられ,〈生きても死にても雷を捕りし蜾蠃の墓〉と墓標に記された,とする。《新撰姓氏録》には,小子部雷が秦(はた)氏を召集し,その秦氏が養蚕を行ったこともみえる。いずれの伝承も雷や蚕にかかわっており,古代の雷神信仰と養蚕との深い関係をうかがわせる人物である。
執筆者:出雲路 修
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報