引返(読み)ひきかえす

精選版 日本国語大辞典 「引返」の意味・読み・例文・類語

ひき‐かえ・す ‥かへす【引返】

[1] 〘他サ五(四)〙
① 繰り返す。反復する。
源氏(1001‐14頃)宿木「をかしやかなる事もなき御文を、うちも置かず、ひき返しひき返し見ゐ給へり」
もとのところへ返す。あとへもどす。
※源氏(1001‐14頃)胡蝶「さきざきも、しろしめし、御覧じたる、三つ四つは、ひきかへし、はしたなめきこえむもいかがとて」
③ 裏に返す。うらがえす。ひっくりかえす。くつがえす。
※源氏(1001‐14頃)須磨「畳、所々ひきかへしたり」
④ (連用形を副詞的に用いる) うってかわって。逆に。
※源氏(1001‐14頃)夕顔「六条わたりにも、とけ難かりし御気色をおもむけ聞え給ひて後、ひき返しなのめならむは、いとほしかし」
⑤ 考えなどを変える。また、悔い改める。改善する。
御伽草子猿源氏草紙(室町末)「すでに討たんとしたりしが、中にて心をひきかへし」
⑥ すぐに返す。直ちにこたえる。おりかえす。
太平記(14C後)二「鬢の髪を少し押切って、北方の文に巻そへ、引返し一筆書て」
歌舞伎・当龝八幡祭(1810)二幕「ト幕の内、聖天囃子にてつなぎ、直ぐ引返(ヒキカヘ)す」
[2] 〘自サ五(四)〙
① もとの場所にもどる。もどってくる。ひっかえす。
※松井本平治(1220頃か)一「うてやものども、うてやとて、都をさしてひき返(カヘ)す」
② もとの状態にもどる。もとのようになる。
※源氏(1001‐14頃)松風「まだ調べもかはらず、ひきかへし、その折、今の心ちし給ふ」

ひっ‐かえ・す ‥かへす【引返】

(「ひきかえす(引返)」の変化した語)
[1] 〘自サ五(四)〙 もとにもどる。もどってくる。ひっかえる。
保元(1220頃か)中「敵引っ返すと見てければ」
[2] 〘他サ五(四)〙
① もといた所へもどらせる。〔日葡辞書(1603‐04)〕
② 歌舞伎で、一度幕を引いて、下座(げざ)音楽拍子木でつないでおいたものを、再び急いであける。
※歌舞伎・四天王楓江戸粧(1804)三立「ト時の鐘にてツナギ、すぐ引っ返す」
③ 裏返しにする。ひっくりかえす。
人情本・恋の若竹(1833‐39)初「何かちらしを引(ヒ)っ返(カヘ)して見て居る」

ひっ‐かえし ‥かへし【引返】

〘名〙 (「ひきかえし(引返)」の変化した語)
① 引き返すこと。もとへもどること。
衣装の仕立方の一つ。婦人衣服のそで口や裾回しに表地と同じ布を用いるもの。ひっかえしうら。
※俳諧・千宜理記(1675)三「うら葉迄紅葉やもみのひっ返し〈良久〉」
③ 歌舞伎で、一度幕を引いて、下座(げざ)音楽や拍子木でつないでおいて、急いでまたあける、場面の転換方法。ひっかえしまく。
※雑俳・柳多留‐八(1773)「引かへしの幕て明智してやられ」
④ 髪の結い方の一種という。〔評判記・色道大鏡(1678)〕

ひき‐かえし ‥かへし【引返】

〘名〙
① もとへもどること。ひっかえし。
② 連歌俳諧で初折の裏をいう。初裏(しょうら)
※連歌新式追加並新式今案等(1501)「近代一之懐紙、引返之第二句迄、恋・述懐・名所等、猶如面不之」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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