衣服(読み)いふく

精選版 日本国語大辞典 「衣服」の意味・読み・例文・類語

い‐ふく【衣服】

〘名〙 きもの。ころも。きぬ。衣装。
続日本紀‐和銅四年(711)一一月壬庚「賜畿内百姓年八十以上及孤独不自存者衣服食物」 〔詩経‐小雅・大東〕

え‐ぶく【衣服】

〘名〙 (「えふく」とも) 着る物。いふく。
※妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)二「衣服(エフク)(〈注〉キモノ)を、ととのへて、ひとへにみきのかたを、あらはにし」 〔南本涅槃経‐一二〕

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デジタル大辞泉 「衣服」の意味・読み・例文・類語

い‐ふく【衣服】

からだにまとうもの。着物。衣装。
[類語]洋服和服ころも衣料品衣料衣類着物着衣被服装束お召物衣装ドレス洋品アパレル略服ふだん着略装軽装着流しカジュアルよそゆき一張羅街着礼服式服フォーマルウエア礼装正装既製服レディーメード既製出来合い吊るしプレタポルテ注文服オーダーメード私服官服制服ユニホーム学生服軍服燕尾服喪服セーラー服水兵服背広スーツ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「衣服」の意味・わかりやすい解説

衣服
いふく

人間が身にまとうもののうち、被り物(かぶりもの)や履き物、手袋などを除いたものの総称。クローズclothes。衣服は、人間が着用して初めて機能を発揮する。衣服と人間との関係を究明することにより、衣服に求められる性能が明らかにされてきた。その際、材料学や構成学はもとより、生理学、化学、人間工学、美学、心理学にまで及ぶ学際的な方法がとられる。衣服は人間の外面だけではなく、内面にも深くかかわっているからである。

[辻ますみ]

衣服の材料

衣服の材料は、衣服の種類や目的によって選択される一般的な衣服材料としては天然繊維と化学繊維があるが、最近では繊維を混用することによって、新しい性能を備えた材料が多くなっている。たとえば、ポリエステルと綿や毛との混用では、外観や手ざわりがよくなり、耐久性も増して、洗濯はしやすくなるという効果がある。またアクリルと毛では保温性が増すとともに、プリーツ加工が可能となる。学生服や作業衣にナイロンビニロンが混用されるのも、耐久性の効果が著しいからである。混用品の性能は、混用した繊維の性能の数値を加減したものとは、かならずしも一致しない。織り組織や糸の太さなどに影響されるからである。

 また繊維に特殊な性能をもたせるために、次のような加工法が行われている。

(1)異形断面繊維 ノズルの孔(あな)の形を変えて、繊維断面を三角や十字形などの異形にする方法で、それによってしなやかさと美しい光沢と深みのある色を得ることができるうえに、乱反射によって薄地でも透けて見えないという効果がある。また綿や麻に似せて繊維を中空にし、軽さや暖かさ、柔らかさを加えることもできる。

(2)複合繊維 2種類の原料を張り合わせた構造で、熱による収縮の違いを利用して縮れを出すことができる。

(3)かさ高加工 熱可塑性を利用して縮れを与える。

(4)防しわ加工(樹脂加工)
(5)防汚加工
(6)撥水(はっすい)加工(防水加工)
(7)帯電防止加工 静電気の発生を少なくし逃がしてやる加工。

(8)防炎加工(難燃加工)
(9)防虫加工
(10)吸湿加工 疎水性の合繊に吸湿性を与える。

(11)オパール加工 交織した繊維の一方を酸で溶かして、レース状模様をつくる。

(12)フロック加工(植毛加工)
(13)パーマネント加工
(14)ボンディング加工 2種の素材を張り付ける。

 以上のように、素材の欠点をカバーしたり、質感を変えることによって、高級品化する加工が行われており、超極細繊維を絡み合わせて、天然皮革と同様な構造をもたせた人工皮革も開発されている。

[辻ますみ]

衣服と人体

衣服を着用したときに衣服と人体の間では、衣服の運動性機能と、熱・水分・空気の伝達機能とが問題になるが、いずれも衣服の着心地を左右する重要な要素である。

〔1〕運動性機能 動作による人体の変形によって衣服が変形し、人体を拘束圧迫して、動作を阻害する作用をいう。変形には衣服のゆとり量が関係するが、ゆとり量でカバーできない部分は、衣服材料が伸びて人体を圧迫することになる。皮膚の伸縮量は、ゆとり量を決める際の参考になるが、実際の人体の動きは複雑であるうえに、衣服材料の伸長性能や摩擦性能が影響してくるから、これらの変数を組み込んだ衣服設計が必要である。変形や圧迫は材料によって解消される場合もあるが、カーブの形状やダーツの分量や位置、縫い目の位置など、構成上の手段によって補正することも可能であり、この場合に、外観のシルエットやデザインにも影響してくる。どの部分をどのくらい体から離すかは、科学的合理性をもつとともに、外観上の美しさや流行への適合をも備えていることが要求される。

〔2〕熱・水分・空気の伝達機能 人体の体温調節機能に関連する。衣服は外界と皮膚との間に独特の衣服気候をつくり、体内から出た熱を外界に放出し、また外界の温湿度の変化を皮膚に伝える。熱の放散は輻射(ふくしゃ)、対流、伝導によって行われるが、この際に衣服材料の透湿性や通気性、吸水性、保温性が問題になる。吸湿や吸水による繊維の表面形状の変化は、肌ざわりに影響を与えるが、開口部を通して行われる衣服下の空気と外気との換気作用が加わるから、開口部の設計も考慮する必要がある。人と衣服と環境の間の熱平衡に関連する分野である。

 以上のように、衣服と人体との関係では、衣服材料の物性と衣服設計と着心地とが、どのように関連しあっているかを明らかにすることが課題となっている。とくに着心地という官能性には、衣服の合理的な機能よりも、美しくありたいという心理的な装身の機能が強く作用するために、評価を複雑にしている。

[辻ますみ]

衣服の取扱い

洗濯やアイロン仕上げ、保管など、日常の取扱いが衣服の劣化の進行程度に関連する。

 洗濯により衣服は劣化し、型くずれ、風合いの変化や毛羽(けば)立ち、黄変などをおこす。型くずれは、素材の収縮性や防しわ性や伸長弾性、織り組織の密度、縫製や副素材が影響する。織り組織は甘撚(あまよ)りで密度の粗いものは収縮しやすく、加工がしてある場合でも洗浄による変形はおこりうる。縫製では縫い糸の性能や糸調節により、縫い目のつれやゆがみを生じ、裏地や芯地(しんじ)などの副素材は硬化や収縮をおこす。風合いの変化や毛羽立ちは、視覚や触覚に影響を与え、劣化の印象を強くする。黄変は再汚染、日光によるもの、水道水中の鉄分によるものがある。さらに洗濯機の機械作用や洗剤、漂白剤への浸漬(しんし)、日光照射、アイロンによる熱作用などを受けて、布の強度は低下する。

 保管中の衣服は湿度の影響を受けて、変色や脆化(ぜいか)やカビの発生をおこし、防虫剤も混合使用によってボタンなどが溶解をおこす。耐用年数にもよるが、衣服の劣化は以上のような取扱い過程で推進され、消費者からのクレームもこの段階で発生しやすい。メーカー側の適正な素材選びと縫製方法、使用者側の適正な取扱いが望まれる。

[辻ますみ]

衣服と社会

衣服には品質規格やサイズ規格など、製造者側の自主規制と、家庭用品品質表示法や安全性に関する法律など、消費者保護を目的とした法律がある。

[辻ますみ]

品質規格

JIS(ジス)(日本産業規格)により繊維製品の品質判定基準とその試験法が規定されており、それを基にした品質規格が、各検査機関や百貨店などで設定されている。また各所で行われる商品テストもJISを基準としているが、実際の着用による事故は、複雑な要素が絡み合って起こる場合が多く、実用に沿った試験法もとられている。

[辻ますみ]

サイズ規格

JISに定められた衣料品のサイズに関する規格では、着用者を乳幼児、少年、少女、成人男子、成人女子の五つに区分し、着用区分を全身用、上半身用、下半身用に分け、これに従って基本身体寸法が定められている。

 乳幼児では身長と体重を基本身体寸法として9種類のサイズがある。少年、少女用ではA、Y、B、Eの4体型を置き、フィット性を必要とするものと、あまり必要としないものに分け(寝衣類、下着類等は除く)、身体寸法の表示部位(身長、胸囲、胴囲、腰囲)と表示順位が定められている。成人男子は体型をJ、JY、Y、YA、A、AB、B、BB、BE、Eの10種類、成人女子では身長の区分を4種類(142、150、158、166センチメートル)とし、これに胸囲(バスト)と腰囲(ヒップ)を組み合わせた分類がある(Y、A、AB、Bの体型区分は現在ほとんど使われていないため削除された)。フィット性を必要とするものは胸囲、胴囲(女子は腰囲)、身長の順に表示し、フィット性をあまり必要としないものは、胸囲と身長を表示する。成人の身長には、寸法値ではなく呼び方の番号を記入してもよい。成人にはS・M・Lサイズ表記の範囲が示され、2023年(令和5)改正では小さいサイズ(SS)と大きいサイズ(男子3L~5L、女子4L~6L)の追加と男女兼用サイズが新たに加えられた。

[辻ますみ・編集部]

家庭用品品質表示法

1962年(昭和37)5月に公布され、たび重なる改正を経て現在に至っている。品質に関する表示の適正を図り、一般消費者の利益を保護することが、この法律の目的であり、繊維製品では39品目が対象となっている(1980年3月現在)。

 表示事項として、(1)繊維組成、(2)収縮性、(3)難燃性、(4)家庭洗濯法等取扱い方法、(5)撥水性、(6)寸法表示の6項目があり、不正表示に対しては罰則が適用される。表示事項は製品の種類によって異なるが、衣服関係では繊維組成と取扱い方法の表示が義務づけられており、コート類にはこのほかに撥水性の表示が加わる。収縮率や寸法の表示は、カーテンやシーツやふとんカバーなどが対象になる。繊維組成は繊維の名称と混用率を表記し、表示者名を加える。混用率は多い順に%で表し、10%未満は一括表示が認められる。家庭洗濯法等取扱い方法は、1976年より「取扱い絵表示」が制定され、絵表示されたラベルは直接製品に取りつけることになっている。撥水性はJISの試験法により、撥水度(水をはじく程度、防水効果)が70点以上のものに限って表示されるが、洗濯やドライクリーニングによって効果が低下するものは、その旨を表記しなければならない。

 表示法が実施されていても、混用率表示の誤りや、洗濯に対する必要以上に過剰な表示、輸入品に多い表示の不備などが問題にされている。また色落ちに対する苦情が多いところから、染色堅牢(けんろう)度を表示する必要性が高まっており、サイズ表示についても、品質表示法で義務化されることが望まれている。

 そのほかに強制されている表示として原産国表示がある。輸入品やブランド品にはまぎらわしい表示が多いが、公正取引委員会の不当景品類及び不当表示防止法により、不当表示が規制されている。衣料品の場合の原産国は縫製された国名となり、デザイン提携の場合もその旨を明示しなければならない。

 さらに自主的に表示されるものとして、国際羊毛事務局が管理するウールマーク、また製品の弱点を明示するデメリット表示などがある。

[辻ますみ]

安全性に関する法律

繊維製品の加工剤による皮膚障害や、有害性や発癌(はつがん)性が問題となり、1973年(昭和48)に「有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律」が制定された。1975年には有機水銀化合物の使用禁止と、樹脂加工剤ホルムアルデヒドの規制が行われ、続いて1978年に防虫加工剤ディルドリンの規制、難燃加工剤トリスホスフェイトなどの使用禁止が決定されており、新種の加工剤についても順次試験が行われ、規制や禁止が公示されている。

[辻ますみ]

衣服の原初的意義

衣服は、食物、住居とともに人間の生活上もっとも基本的なものである。しかも衣服を着る動物は人類だけであり、したがって衣服は人類の広い意味での適応の一形式といえるのである。

 衣服には大きく分けて二つの側面がある。その第一は、自然環境への適応でみられる、身体を守るための衣服である。寒暑、光、水分、風、あるいは外力から身体を保護する機能を衣服は備えている。その第二は、文化における習俗としての側面である。この意味での衣服は、装飾の手段として美的感覚とも関連し、また社会的背景に裏打ちされて、身分、性別、民族の指標、あるいは儀礼のしるしとしての役割を果たしている。第二の側面は、身体の保護という衣服のもつ基本的な必要性を越えて、着ることによって、あるいは着ないことによって意識される他人との区別を基盤としている。後者はとくに性的な場面では羞恥(しゅうち)心と関連している。

 身体を守るための衣服は、過酷な自然環境と対面する人間の生活を助け、人類の生活圏拡大に貢献した。たとえば、エスキモーのもつ衣服文化は厳寒の地に適応したものであり、砂漠の遊牧民の服装は強い日射しとほこりから彼らを守っている。また、戦いのための鎧(よろい)や潜水用のウェットスーツはこの機能が特殊に発達したものといえる。

 一方、習俗としての衣服は、着る目的で分類することができるだろう。第一に、装飾のための衣服がある。美への欲求はその規準こそ違え、多くの民族がもっており、その飽くなき追求と意識によって、流行とともに衣服は多様化を遂げたのである。第二に、社会的な身分や地位を象徴したり富裕を表す指標となる衣服がある。第三に、着用することである集団もしくはカテゴリーへの帰属が認知される衣服がある。制服や軍服、民族衣装がそうであり、年齢の相違や未既婚の別を表す服装も含まれる。このような衣服を着ることで、自集団への帰属とともに、他集団との区別が明示されるのである。第四に、儀礼の重要性を際だたせるしるしとしての衣服がある。宗教儀礼や年中儀礼、人生儀礼の通過儀礼などの場面で、普段着とは違う非日常的な服装がみられることが少なくない。以上のような習俗としての衣服は、民族によって多様であり、その民族が培ってきた伝統と深くかかわっている。この点に注目し衣服の象徴的機能を分析する研究者もいる。

[髙谷紀夫]

『日本繊維製品消費科学会編『繊維製品消費科学ハンドブック』(1975・光生館)』『日本繊維製品消費科学会編・刊『繊維製品消費科学総論』(1977)』『JIS衣料サイズ推進協議会編・刊『既製衣料品サイズのすべて』(1980)』『日本消費者協会編・刊『家庭用品品質表示法の解説』(1977)』


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改訂新版 世界大百科事典 「衣服」の意味・わかりやすい解説

衣服 (いふく)

人間が身体を部分的あるいは全体的に覆うために着用するもの。衣服の着用は,人間を動物から分かつことになった重要な文化要素で,食・住と並んで,人類の生活に不可欠な部分である。衣服の目的は時代により地域により実に多様であり,また他の要素と比べて,社会の進歩や変化と共に比較的変わりやすい要素であるために,人類の衣生活はきわめて複雑なものになっている。衣服の多様性を,その起源,機能,使い分けなどからみてゆくことにする。

衣服の起源についての考察は,そのまま衣服の機能について考えることにもなる。周知のように,人間は衣服を作ることによって自然に対抗し,どのような環境にも適応しうるようになった。極寒の寒さや灼熱の太陽から身を守り,害虫や外傷から身体を保護するために,人々は衣服を身につける。そこから最も一般的な起源説である環境適応説が生まれた。しかしそれだけでは説明しきれないケースが若干ある。例えば南米のフエゴ島の原住民オナ族は,寒冷な湿気の多い所に住むが,身につけるものといえば腰布とアザラシやカワウソの皮で作った袖なしの外衣だけである。昼間は暑いが夜は急激に温度の低下する地域に住む,アマゾンオーストラリアの原住民も,体を覆うことをせず一年中裸で,夜はたき火をしてこげるほど近くで互いに体を寄せ合って眠るだけである。

 次に,人間のもつ羞恥心から衣服の起源を説明するものがあげられる。まったく体に何もつけず性器を露出させている民族はごく限られているし,イスラム教徒の女性のベールはその慎み深さの極致といえるだろう。しかしこれも決定的な説明とはいいがたい。アマゾンのウイトト族の女性は通常全裸で,祭りの日には前部に三角形の切穴をもつ広い腰巻を身につけて,逆に恥部を誇張する。また乳房を露出することは平気でも特定のアクセサリーをはずすことが大変な恥であったり,何をもって恥ずかしいとするかは,民族,地域,時代によって実に多種多様である。文明社会でも,女性は長い間,脚をみせることを慎みのないこととしてきたが,現代ではミニスカートやショートパンツが流行し,トップレスの衣服も出てきている。

 そこで,羞恥説とちょうど逆の説明となる異性吸引説がある。衣服は男女が互いに相手をひきつけようとする動機から生まれたとする説で,種族保存本能に裏づけられたものとする説である。例えば熱帯雨林地帯の裸族の男たちはたいていペニスケースを身につけているが,これは羞恥心から性器を覆うというより,外傷から性器を守る機能の方が強い。さらにペニスケースがきわめて装飾性に富み,極端に長くとがっていたり大きかったり,また鳥の羽毛や貝などの飾りがつけられていたりするのは,明らかに異性に性的刺激を与えようとするものである。異性吸引説は広義には人間の装飾本能から衣服の起源を説明するものに含まれよう。

 現在最も説得力のある衣服起源説は,美しく身を飾りたいという人間の心的・文化的欲求から説明する装飾説である。異性への性的誇示を含む自己顕示欲も満足させるものである。未開な社会にもおしゃれ心があり,自分の身体を傷つけ苦痛に耐えてでも人々は身を飾る。体一面に鮮やかな色彩で模様を描くボディペインティングや入墨瘢痕文身,種々の頭飾,装身具類も広義の衣服である。

身体保護という実際的な機能のほかに,衣服の機能として重要なのは,性別,身分,集団への帰属,職業,富などを表示するシンボリカルな機能である。前者の生理的欲求を満たす第1次的機能に対して,人間の自己主張の一つの形としての装う,飾るという,社会的・文化的欲求を満たす第2次的機能である。衣服が地位や身分を表示するシンボルとしての機能を最も発揮したのは,中国の宮廷においてであろう。各階級によって,色,形,飾りが微細に定められていた。過去から現代に至る西欧社会の軍服もしかりである。冠,金モール,紋章など,集団内の序列を示すマークは数多い。インドシナ半島の山岳地帯には多くの少数民族が居住しているが,服装によって直ちに何族であるかが,誰の目にも明らかである。また同一種族内の亜種族も,色彩によって判別できる。例えばミヤオ(苗)族は,紅ミヤオ,青ミヤオ,黒ミヤオといった服の色にちなんだ亜種族名をもつ。また伝統的な社会では,多くの女性は服装によって,未婚・既婚の別を表示している。ナイジェリアのイボ族の女性は,結婚前は裸でいるが,婚後は木綿の巻きスカートをつける。タイの少数民族カレン族の既婚女性は色もののツーピースを着,未婚の娘は白い貫頭衣のワンピースを着ている。頭飾やアクセサリーによる表示も多い。未開,文明を問わず,一目瞭然でその職業がわかる服装も数多い。アフリカやアマゾンの祈禱師や東北アジアのシャーマン,西欧社会の聖職者,警察官,看護婦など枚挙にいとまない。

たいていの社会にはふだん着と晴着の区別がある。すなわち人は通常は,ハレ(祝祭の場,非日常性)に対応する衣服と,ケ(非祝祭,日常性)に対応する衣服を使い分けているのである。ことに祝祭時の衣装はコード化された社会的記号といえる。晴着というのは元来人前や公の場での服ということであり,凶事の服,喪服も含むものである。日本では晴着といえば,伝統的に白い着物であった。白い服を身につけることによって,直ちに着用者の個別的状況が了解されるしかけである。衣服は,集団と集団,また個人と集団との間のコミュニケーションの方式の一つであり,個人がある集団やある状況に自分を帰属させる方式の一つでもある。
身体装飾 →装身具 →服制 →服装
執筆者:

衣服の形は人体,風土,民族の生活,材料,性に影響されて多様なものが生まれてきた。しかし,基本的形態としては,紐衣(ちゆうい)型(リガチュアligature),巻き衣型(ドレーパリーdrapery),貫頭衣型(チュニックtunic),前開き型,腰衣(ようい)型(ロインクロスloin-cloth),ズボン型などが見られる。紐衣型は獣皮衣と共に,人類の原始衣の形の一つで,旧石器時代のビーナス像や,古代エジプトの奴隷の腰部に紐状のものを巻きつけたものが見られ,腰衣型とも関連している。巻き衣型は縫合せのない衣服で古代ギリシアのキトン,ローマのトガ,インドのサリーなどで,温暖な地域で着用されている。長方形の布を身体に垂らしたり巻いたりして襞を寄せ,布の両端を結び合わすか,帯や紐をしめるか,留具で留めた。日本でも,《魏志倭人伝》によれば,〈横幅衣〉と称された巻き衣が3世紀ころ用いられていたようである。貫頭衣は寒帯地方で着用されたが,しだいに温暖な地帯にも普及した。布の中央に頭を通す穴を開け,腕を通す袖をつけた形で,現在の衣服は基本的に貫頭衣である。古代ローマ人はトガの下に貫頭衣を着たが,これをトゥニカとよんだ。南アメリカのポンチョは頭を通す穴だけをあけた形である。腰衣型は古代エジプトなどの地中海沿岸や熱帯地方に見られ,腰部から下部を覆う衣服で,別名エプロンとも称される。インドネシアなどのサロン,ミャンマーのロンギlongiなどがある。前開き型はアジア諸地域に多く,日本の着物,中国の衫(さん)(中国服),ベトナムのアオザイ,朝鮮のチョゴリなどに見られる。ズボン型はアジアの騎馬民族からヨーロッパに伝わり,貫頭衣などと組み合わされて今日の洋服の原型となった。以上の基本型は互いに混交しあってさまざまな形が作られている。

 衣服の材料には,綿,麻などの自然の植物,羊毛,毛皮,皮革,絹などの動物,石綿などの鉱物から採取される天然繊維と,レーヨン,ナイロン,ポリエステルなどの化学繊維が用いられている。繊維や織物の特質,利用の歴史などは〈繊維〉〈化学繊維〉〈麻織物〉〈絹織物〉〈毛織物〉〈〉〈毛皮〉の項を参照されたい。
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普及版 字通 「衣服」の読み・字形・画数・意味

【衣服】いふく

きもの。〔論語、泰伯〕禹は吾(われ)然すること無し。飮(うす)くして、孝を鬼に致し、衣を惡しくして、美を黻冕(ふつべん)(祭服)に致す。

字通「衣」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「衣服」の意味・わかりやすい解説

衣服
いふく

服装」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の衣服の言及

【服飾規制】より

…つまり,奢侈禁止法そのものが,一般的な奢侈を禁じたものではなく,あくまで〈分を超えた〉奢侈の取締りを意図していたのである。その規制内容は,宴席における料理の品数から刀剣の長さ,馬具の飾りなど多彩だが,圧倒的に衣服,とりわけ成人男子の衣服のあり方を問題にしている。衣服は最も人目につきやすいステータス・シンボルであったし,身分制社会における身分は,戸主である成人男子のそれを基準としており,妻,子ども,召使いなど家族内の従属的メンバーの身分は,戸主のそれに準じるのがふつうだったからであろう。…

【変装】より

…さまざまな目的のために衣服,化粧,髪形等の〈装い〉を変えることをいう。
[〈変装〉という言葉]
 日本語の語彙には,〈変身〉〈変相〉という言葉は古くからあったが,この〈変装〉という言葉は,近代以降に作られた新しい言葉であり,近代西洋語(フランス語déguisement,travestissement,英語disguiseなど)の翻訳語として用いられ始めたものと考えられる。…

※「衣服」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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