心有(読み)こころあり

精選版 日本国語大辞典 「心有」の意味・読み・例文・類語

こころ‐あ・り【心有】

連語
① 他に対してあたたかい気持をもつ。思いやりがある。
書紀(720)欽明一六年二月(寛文版訓)「何そ痛きことの酷き、何そ悲しきことの哀(あから)しき、凡そ在含情(ココロアル)もの誰か傷悼(いた)まさらむ」
万葉(8C後)一・一八「三輪山をしかも隠すか雲だにも情有(こころあら)なも隠さふべしや」
※我が一九二二年(1923)〈佐藤春夫秋刀魚の歌「あはれ 秋風よ 情(こころ)あらば伝へてよ」
② 情理を解する。あたたかい気持で、もののすじ道を考える。
源氏(1001‐14頃)賢木「おほやけも心細うおぼされ、世の人も心あるかぎりは歎きけり」
思慮分別がある。物の道理がわかる。良識をもつ。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「かかる梨壺ばかりこそ、心もおいらかに、見るめもきたなげなきうちに、親なども心ある人なり」
徒然草(1331頃)三八「大きなる車、肥えたる馬、金玉の飾りもこころあらん人は、うたて愚かなりとぞ見るべき」
情趣を解する。もののあわれを知る。
落窪(10C後)四「おもしろの駒は思ひ寄らざりけれど、妹共の心有ければ」
※後拾遺(1086)春上・四三「心あらん人に見せばや津の国の難波わたりの春のけしきを〈能因〉」
風情を覚える。風雅である。風流である。
※枕(10C終)三七「雨うち降りたるつとめてなどは、世になう心あるさまにをかし」
⑥ 各種の意図的な気持をもつ。
(イ) 特定の相手以外の人を愛する気持をもつ。二心をもつ。異心(ことごころ)がある。
※万葉(8C後)四・五三八「人言(ひとごと)を繁みこちたみ逢はざりき心在(こころある)ごとな思ひ吾が背子」
(ロ) 下心がある。作意的な心がある。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「わがぬしを酔はし奉るも心ありや、酔ひて、もはらし給はねば、本性あらはし給へとぞや」
(ハ) 意趣を含む。ひそかに恨みや害心などをいだく。
※源氏(1001‐14頃)真木柱「この参り給はむとありし事も絶え切れて、妨げ聞えつるを、うちにもなめく心あるさまに聞し召し、人々もおぼすところあらむ」
⑦ 歌論や連歌論の用語。
(イ) 作者の主体的真実が作品にこめられている。深いまごころや感動がこめられている。特に藤原定家は、そういう歌を有心体と称した。
毎月抄(1219)「常に心ある躰の歌を御心にかけてあそばし候べく候」
(ロ) よみ口が気がきいている。センスがある。
※永承五年女御延子歌絵合(1050)「卯花の咲ける盛りは白波の立田の川の堰(ゐぜき)とぞみる 末いまめかしく、こころありなど侍るは、ゆかぬことにぞ」
(ハ) 風情が深い。情趣がある。
※類従本元永元年十月二日内大臣忠通歌合(1118)「遙かにめぐる初時雨、いま少しこころありてや侍らん」

こころ‐ある【心有】

〘連体〙 (「こころあり」の連体形から) あたたかい思慮、分別がある。良識がある。
※朝野新聞‐明治八年(1875)一二月八日「日本の金貨が外国へどんどん出るさうだ、ハテ困ったものだと心有る人が常に心配しますが」
※夜明け前(1932‐35)〈島崎藤村〉第一部「心あるものはいづれもこの人を推して」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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