日本大百科全書(ニッポニカ) 「悲劇の哲学」の意味・わかりやすい解説
悲劇の哲学
ひげきのてつがく
Философия трагедии/Filosofiya tragedii
ロシアの文芸評論家シェストフの代表的著作の一つ。主題「ドストエフスキーとニーチェ」。1903年発表。19世紀後半ヨーロッパに流行した実証主義的合理主義とトルストイ的理想主義の双方を批判しつつ独断的悲観論を展開、ドストエフスキーとニーチェを「偉大な不幸、偉大な醜悪、偉大な不成功を尊重する」悲劇の哲学の担い手として高く評価している。ドストエフスキーの『地下室の手記』に「信念の転換」をみいだしたこの論文は、満州事変以降の思想弾圧におびえる日本の知識人の間にみられた一時的シェストフ・ブームの発端となり、人道主義的に偏りがちであった日本のドストエフスキー解釈に一石を投じた。
[沢崎洋子]
『近田友一訳『悲劇の哲学』(1968・現代思潮社)』