日本大百科全書(ニッポニカ) 「日本文化史序説」の意味・わかりやすい解説
日本文化史序説
にほんぶんかしじょせつ
歴史学者西田直二郎(なおじろう)の主著。西田がその学を形成した大正時代は、大正デモクラシーの思想が世界と大衆に向かって個人を解放しようとした時代であった。1924年(大正13)西田は「王朝時代の庶民階級」の論文で博士号を得て京都帝国大学の教授になったが、わざわざ貴族時代の庶民を取り扱うところは時代の風潮をくむもので、同時代の柳田国男(やなぎたくにお)の民俗学、柳宗悦(やなぎむねよし)の民芸運動と軌を一にした。西田は同年、大学の夏期講習会で日本文化史を講じ、それを増補して1932年(昭和7)に本書を刊行した。人間の自我の発展の世界史的考察を試みたコンドルセ、一時代の人々の諸活動のうちに内在する時代精神をとらえようとしたディルタイやブルクハルトなどの史風を受け、日本文化の展開を時代順に述べて独創的な見解を示した。巻頭に、文化史の理論、西洋および日本における文化史の発達を説いて文化史の確立を期している。大正時代の思想を代表する名著の一つである。
[石田一良]