コトバンクはYahoo!辞書と技術提携しています。

大衆 たいしゅうmasses

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

大衆
たいしゅう
masses

特定の組織化された人々の集団ではなく,無定形な無数の人々の集団。政治学社会学の分野においては,社会のエリート層,すなわち指導者層に対する概念として一般の人々すなわち一般大衆 general publicを意味する。公衆 mass publicの概念ともほぼ同じである。大衆の概念は,能動的で自己の判断力をもった自立した市民によって形成されていた「近代市民社会」が,産業革命による資本主義社会の発達ならびにマス・コミュニケーション (大量情報伝達) 手段の発達に伴って,バラバラで互いに匿名性をもった多数の個々人の集合体によって構成される「現代社会」に変質したことで出現したものである。これには現代の民主主義社会のにない手としての有権者である大衆,という肯定的な側面と,エリートによって操作され,ある政治的目的のために動員される大衆,という否定的な側面とがあり,政治学,社会学の分野の論者によって強調する面が異なっている。

大衆
たいしゅう

「だいしゅ」ともいい,摩詞僧伽 Mahasamghaの訳語。元来一会の僧侶をいい,衆徒,学侶,学徒ともいった。平安時代以降,主として僧兵をさすようになり,寺院組織のなかで,これにあたる衆徒,堂衆および俗兵を総称するようになった。

出典|ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について | 情報

デジタル大辞泉の解説

だい‐しゅ【大衆】

多くの僧の集まり。また、その僧たち。衆徒。だいす。
「山門の―に仰せて、平家を追討せらるべし」〈平家・一〉

たい‐しゅう【大衆】

多くの人。多衆。
社会の大部分を占める一般の人々。特に、労働者・農民などの勤労階級。民衆。「大衆の支持を得る」「一般大衆
社会学で、孤立して相互の結びつきを持たず、疎外性・匿名性・被暗示性・無関心などを特徴とする集合的存在をいう。

出典|小学館デジタル大辞泉について | 情報 凡例

百科事典マイペディアの解説

大衆【たいしゅう】

massの訳語だが,きわめて多様な評価をともなった多義的な概念。社会学用語としては公衆と対比的に使われることが多い。公衆とは利益の共有に基づいて自らの意見を表出し,討論を通しての社会的な解決をなし得る民主主義の担い手とされる。
→関連項目市民人民大衆操作大衆文化

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト百科事典マイペディアについて | 情報

世界大百科事典 第2版の解説

だいしゅ【大衆】

仏教儀式(法要)の出勤者全体を指す用語。また一山の構成員である僧侶集団の意味もある。法要の主宰者(導師など)の下で,声明(しようみよう)の斉唱,楽器を奏する役,進行役,随伴役など種々の役割を分担する。法要の出勤者を指す職衆(しきしゆう),衆僧,列僧などもほぼ同様の意味合いである。声明の斉唱者集団は,讃衆,散花(さんげ)衆,梵音(ぼんのん)衆,平(ひら)衆などと称することもある。衆徒大衆(しゅとだいしゅう)【高橋 美都】

たいしゅう【大衆 mass】

社会や集団のメンバーのうち,指導者やエリートを除いた残りの多数の人びと。したがって,いつの時代のどんな社会,どんな集団にも大衆はいる。仏教用語では,多数の僧侶,多数の僧兵,すべての人間,すべての生物を意味している(読みは,だいしゅ,だいす,たいしゅう)。大衆の概念は,一方では〈人民people〉という概念と同一視され,他方では〈愚民foule〉というマイナス・シンボルと同一視される。マルクス主義において大衆とは,価値の創造者,歴史の主体的存在としてみなされ,社会主義革命の担い手となる労働者農民を意味する。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト世界大百科事典 第2版について | 情報

大辞林 第三版の解説

だいしゅ【大衆】

〘仏〙 〔「しゅ」は呉音。「だいす」とも〕 多くの僧徒。衆僧しゆそう。また、僧兵の集団。 「山門の-いかが思ひけん、先例を背そむきて/平家 1

たいしゅう【大衆】

多数の人々。多衆。
労働者・農民などの勤労者階級。一般庶民。民衆。
社会学で、階級・階層などの社会集団への帰属意識をもたない多数の人々から成る非組織的な集合体。 → 民衆(補説欄)

だいす【大衆】

〘仏〙 「 だいしゅ(大衆) 」に同じ。

出典|三省堂大辞林 第三版について | 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

大衆
たいしゅう
mass英語
Masseドイツ語
masseフランス語

階級、社会的地位、職業、学歴などの社会的属性を超えた異質な不特定多数の人々から構成された集合体である。お互いは未知な関係で、間接的・非人格的関係からなる匿名的集団である。アメリカの社会学者ブルーマーHerbert George Blumer(1900―87)は、大衆を、〔1〕構成員の異質性、〔2〕構成員の匿名性、〔3〕構成員相互の非交流性、〔4〕非組織性、の四つから定義づけている。[川本 勝]

大衆の登場

19世紀末から20世紀にかけて進行した産業化、都市化は、社会構造を変化させ、多数の労働者階層を生み出した。また、その過程で生じた中間集団の解体、官僚制組織の進展、選挙権の拡大と民主化の進展、教育の普及、マス・メディアの発達などにより、それまでの民主主義の担い手として理念化されていた公衆publicにかわって、大衆社会を支える大衆が登場したのである。
 アメリカの社会学者C・W・ミルズは、公衆と大衆を次のように区別した。
 公衆は、(1)意見の受け手とほとんど同程度に多数の意見の送り手がおり、(2)公衆に対して表明された意見に、効果的に反応を示す機会を保障する公的コミュニケーションが存在し、(3)そのような討論を通じて形成された意見が効果的な行動として実現される通路が容易にみいだされ、(4)制度化された権威が公衆に浸透しておらず、公衆としての行動に自律性が保たれている。
 それに対して、大衆においては、(1)多数の人々は、単なる意見の受け手にすぎない、(2)支配的なコミュニケーションは、個人が迅速に、また効果的に反応することを困難にし、あるいは不可能にさえするような組織に置かれている、(3)意見や行動への実現は、種々の抵抗によって統制されている、(4)大衆は、制度化された権威からの自律性をまったくもっていない、とした。ミルズは、いかなる様式のコミュニケーションが支配的であるかによって公衆と大衆を区別し、大衆社会では、支配的なコミュニケーションの型は、制度化されたメディアであり、大衆は所与のマス・メディアの内容を受け取るだけの存在であるとした。[川本 勝]

大衆の特質

大衆社会状況の進展は、そうしたマス・メディア市場としての大衆を生み出したのである。大衆は、分散して存在し、マス・メディアによって間接的に結び付いている点では公衆に類似しているが、公衆が合理的判断を行う理性的存在であるのに対し、ルーズな組織体で、実質的・合理的思考や判断を喪失した、非合理的、情動的な点で、群集crowdと類似している。「巨大な群集」「新しい群集」ということができる。新しい群集としての大衆は、伝統的な文化や規範から解放され、共通の目標、信念、価値をもたない、原子化されたばらばらの人々からなる集合体として特徴づけられたのである。したがって、仲間意識、一体感などの心理的紐帯(ちゅうたい)を欠くため、社会心理的には情緒的不安をもち、支配されやすいという特質が指摘できる。また大衆は、政治の主体から客体に転化し、エリートに支配される非エリートとして位置づけられ、さらには、巨大な経済機構や官僚制化のなかで非人格化、画一化され、消費生活や余暇生活の場でも同質化された存在となる。こうして大衆は、権力、組織機構、さらには人間から疎外され、不安感、孤独感をもつ無気力な「孤独な群集」としてとらえられる。[川本 勝]

大衆の意味づけ

このように、大衆はマイナスのイメージで意味づけられることが多く、その典型がファシズムの理論である。そこでは、大衆は愚民とほぼ同義とし、先天的に決定能力や統制力を欠き、非合理的、情動的な存在であって、支配される階級で、パンと娯楽以外の何ものも望むものではない無価値な存在とされた。それに対して、大衆をプラスのシンボルとしてとらえるのがマルクス主義理論である。マルクス主義理論では、大衆は、歴史を創造する主体者としての人民とほぼ同義に意味づけられ、労働を通して社会を発展させる働く人々の大多数からなる生産的大衆と位置づけられるのである。そして、大衆は、支配階級の圧力に抵抗して自らの利益を守るために自律的組織に結集する「組織的大衆」になり、運動に指導されると「革命的大衆」に転化するものとしてとらえられるのである。[川本 勝]

現代の大衆

どちらかといえば灰色に描かれた大衆は、現代社会では知的大衆へと変化してきた。社会変動、普通選挙の確立と議会制政治制度の平等化、エリートの変容、所得格差の縮小、生活様式の均等化、高等教育の普及、マス・メディアの発達と多様化など、さまざまな社会的状況が変化するなかで、大衆を、没個性的で受動的な操作の対象としてのみとらえることができなくなったのである。現代社会における大衆は、類似性、同質性を示す一方、批判能力を備え、個々の判断に基づいて反応する個別性を強めてきたといえる。大衆は、政治、経済、社会のあらゆる領域においてパワーを発揮するのである。[川本 勝]
『C・W・ミルズ著、鵜飼信成・綿貫譲治訳『パワー・エリート』(1958・東京大学出版会) ▽D・リースマン著、加藤秀俊訳『孤独な群衆』(1964・みすず書房) ▽高橋徹著『大衆とは何か』(『岩波講座 現代思想 人間の問題』所収・1956・岩波書店) ▽K・マンハイム著、福武直訳『変革期における人間と社会』(1962・みすず書房)』

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について | 情報 凡例

世界大百科事典内の大衆の言及

【衆徒大衆】より

…平安時代以後,南都北嶺などの諸大寺に止宿して,論義法談の慧学や修法観法に専心した僧侶の総称。〈大衆〉のみの場合は〈だいしゅ〉とよむ。諸堂の管理や供華点灯などの雑用に従事した行人(ぎようにん)の上位にあって,行人とともに寺院大衆集団を構成した。…

【大衆文化】より

…ある社会で生産され提供される社会的機会・財貨・サービス・情報(精神的な富)を,その社会を構成する大衆がひろく享受する全状況をいう。つまり精神的な富の生産・流通・享受の過程と,その過程が社会および個人に対してもつ意義を含んでいる。…

【暴動】より

…非計画的な,組織をもたない自然発生的な集団的暴力行使で,初期的段階の内乱の一形態ともなる。暴動は,支配される側の大衆が,さまざまな不満を正規の政治システムを通じて解消できないとき,事前の計画も明確なリーダーシップもほとんどないまま,暴発的に行う暴力の行使である。歴史上,暴動の例は枚挙にいとまがないが,古代ギリシア・ローマの奴隷の反乱,中世ヨーロッパの農民一揆や日本の百姓一揆の多くや米騒動などがその例である。…

※「大衆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト世界大百科事典 第2版について | 情報

大衆の関連キーワードマス・デモクラシーモータリゼーション社会大衆党(沖縄)ポピュラーペーパーマスデモクラシー大衆デモクラシーポピュラリティーポップカルチャーマス・ソサエティマスソサエティーポピュラーソングパブリックハウスパルプマガジンマスカルチャー沖縄社会大衆党トラットリアグラスルーツカンパニア州アジテーター一杯飲屋

今日のキーワード

異常天候早期警戒情報

5日から 8日先を最初の日とする 7日間の平均気温がかなり高い,またはかなり低い確率が 30%以上と見込まれる場合に注意を呼びかけるため気象庁から発表される情報。低温や猛暑が長く続くと,人の活動や農作...

続きを読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android

大衆の関連情報