大衆(読み)タイシュウ(英語表記)mass 英語

デジタル大辞泉 「大衆」の意味・読み・例文・類語

たい‐しゅう【大衆】

多くの人。多衆。
社会の大部分を占める一般の人々。特に、労働者・農民などの勤労階級。民衆。「大衆の支持を得る」「一般大衆
社会学で、孤立して相互の結びつきを持たず、疎外性・匿名性・被暗示性・無関心などを特徴とする集合的存在をいう。
[類語](2民衆公衆たみ庶民平民常民人民市民勤労者生活者一般人市井しせいの人世人せじん俗衆群衆マス

だい‐しゅ【大衆】

多くの僧の集まり。また、その僧たち。衆徒。だいす。
「山門の―に仰せて、平家を追討せらるべし」〈平家・一〉

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精選版 日本国語大辞典 「大衆」の意味・読み・例文・類語

たい‐しゅう【大衆】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「たい」「しゅう」はそれぞれ「大」「衆」の漢音 )
  2. ( ━する ) 多数の人。おおぜいのひとびと。民衆。また、人が多く集まること。〔色葉字類抄(1177‐81)〕
    1. [初出の実例]「此の大衆(タイシウ)せる人数皆其の親方なるものに隷属して勝手に就業するを許されず」(出典:最暗黒之東京(1893)〈松原岩五郎〉三三)
    2. 「大衆の汗おさまりし扇かな〈桜磈子〉」(出典:続春夏秋冬(1906‐07)〈河東碧梧桐選〉夏)
    3. [その他の文献]〔礼記‐月令〕
  3. 特殊の立場にいない一般勤労階級のひとびと。社会の大多数をしめる労働者・農民などの勤労階級。民衆。→公衆
    1. [初出の実例]「工場の中にも、凡そ大衆熱鬧、事務紛繁なる処」(出典:西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一)
  4. だいしゅ(大衆)

だい‐しゅ【大衆】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「だい」「しゅ」はそれぞれ「大」「衆」の呉音。[梵語] mahasamgha 摩訶僧伽の訳語 ) 仏語。比丘の多数集まっているものをいう。僧団の呼称。また、長老に対して法臈(ほうろう)の少ないものをいう。衆徒。だいす。〔法華義疏(7C前)〕
    1. [初出の実例]「南北二京の大衆(ダイシュ)ことごとく供奉して」(出典:高野本平家(13C前)一)

だい‐す【大衆】

  1. 〘 名詞 〙だいしゅ(大衆)
    1. [初出の実例]「大すにまじらはんに、おもだたしく侍るべきもなく」(出典:宇津保物語(970‐999頃)国譲上)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大衆」の意味・わかりやすい解説

大衆
たいしゅう
mass 英語
Masse ドイツ語
masse フランス語

階級、社会的地位、職業、学歴などの社会的属性を超えた異質な不特定多数の人々から構成された集合体である。お互いは未知な関係で、間接的・非人格的関係からなる匿名的集団である。アメリカの社会学者ブルーマーHerbert George Blumer(1900―1987)は、大衆を、〔1〕構成員の異質性、〔2〕構成員の匿名性、〔3〕構成員相互の非交流性、〔4〕非組織性、の四つから定義づけている。

[川本 勝]

大衆の登場

19世紀末から20世紀にかけて進行した産業化、都市化は、社会構造を変化させ、多数の労働者階層を生み出した。また、その過程で生じた中間集団の解体、官僚制組織の進展、選挙権の拡大と民主化の進展、教育の普及、マス・メディアの発達などにより、それまでの民主主義担い手として理念化されていた公衆publicにかわって、大衆社会を支える大衆が登場したのである。

 アメリカの社会学者C・W・ミルズは、公衆と大衆を次のように区別した。

 公衆は、(1)意見の受け手とほとんど同程度に多数の意見の送り手がおり、(2)公衆に対して表明された意見に、効果的に反応を示す機会を保障する公的コミュニケーションが存在し、(3)そのような討論を通じて形成された意見が効果的な行動として実現される通路が容易にみいだされ、(4)制度化された権威が公衆に浸透しておらず、公衆としての行動に自律性が保たれている。

 それに対して、大衆においては、(1)多数の人々は、単なる意見の受け手にすぎない、(2)支配的なコミュニケーションは、個人が迅速に、また効果的に反応することを困難にし、あるいは不可能にさえするような組織に置かれている、(3)意見や行動への実現は、種々の抵抗によって統制されている、(4)大衆は、制度化された権威からの自律性をまったくもっていない、とした。ミルズは、いかなる様式のコミュニケーションが支配的であるかによって公衆と大衆を区別し、大衆社会では、支配的なコミュニケーションの型は、制度化されたメディアであり、大衆は所与のマス・メディアの内容を受け取るだけの存在であるとした。

[川本 勝]

大衆の特質

大衆社会状況の進展は、そうしたマス・メディア市場としての大衆を生み出したのである。大衆は、分散して存在し、マス・メディアによって間接的に結び付いている点では公衆に類似しているが、公衆が合理的判断を行う理性的存在であるのに対し、ルーズな組織体で、実質的・合理的思考や判断を喪失した、非合理的、情動的な点で、群集crowdと類似している。「巨大な群集」「新しい群集」ということができる。新しい群集としての大衆は、伝統的な文化や規範から解放され、共通の目標、信念、価値をもたない、原子化されたばらばらの人々からなる集合体として特徴づけられたのである。したがって、仲間意識、一体感などの心理的紐帯(ちゅうたい)を欠くため、社会心理的には情緒的不安をもち、支配されやすいという特質が指摘できる。また大衆は、政治の主体から客体に転化し、エリートに支配される非エリートとして位置づけられ、さらには、巨大な経済機構や官僚制化のなかで非人格化、画一化され、消費生活や余暇生活の場でも同質化された存在となる。こうして大衆は、権力、組織機構、さらには人間から疎外され、不安感、孤独感をもつ無気力な「孤独な群集」としてとらえられる。

[川本 勝]

大衆の意味づけ

このように、大衆はマイナスのイメージで意味づけられることが多く、その典型がファシズムの理論である。そこでは、大衆は愚民とほぼ同義とし、先天的に決定能力や統制力を欠き、非合理的、情動的な存在であって、支配される階級で、パンと娯楽以外の何ものも望むものではない無価値な存在とされた。それに対して、大衆をプラスのシンボルとしてとらえるのがマルクス主義理論である。マルクス主義理論では、大衆は、歴史を創造する主体者としての人民とほぼ同義に意味づけられ、労働を通して社会を発展させる働く人々の大多数からなる生産的大衆と位置づけられるのである。そして、大衆は、支配階級の圧力に抵抗して自らの利益を守るために自律的組織に結集する「組織的大衆」になり、運動に指導されると「革命的大衆」に転化するものとしてとらえられるのである。

[川本 勝]

現代の大衆

どちらかといえば灰色に描かれた大衆は、現代社会では知的大衆へと変化してきた。社会変動、普通選挙の確立と議会制政治制度の平等化、エリートの変容、所得格差の縮小、生活様式の均等化、高等教育の普及、マス・メディアの発達と多様化など、さまざまな社会的状況が変化するなかで、大衆を、没個性的で受動的な操作の対象としてのみとらえることができなくなったのである。現代社会における大衆は、類似性、同質性を示す一方、批判能力を備え、個々の判断に基づいて反応する個別性を強めてきたといえる。大衆は、政治、経済、社会のあらゆる領域においてパワーを発揮するのである。

[川本 勝]

『C・W・ミルズ著、鵜飼信成・綿貫譲治訳『パワー・エリート』(1958・東京大学出版会)』『D・リースマン著、加藤秀俊訳『孤独な群衆』(1964・みすず書房)』『高橋徹著『大衆とは何か』(『岩波講座 現代思想Ⅱ 人間の問題』所収・1956・岩波書店)』『K・マンハイム著、福武直訳『変革期における人間と社会』(1962・みすず書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「大衆」の意味・わかりやすい解説

大衆 (たいしゅう)
mass

社会や集団のメンバーのうち,指導者やエリートを除いた残りの多数の人びと。したがって,いつの時代のどんな社会,どんな集団にも大衆はいる。仏教用語では,多数の僧侶,多数の僧兵,すべての人間,すべての生物を意味している(読みは,だいしゅ,だいす,たいしゅう)。大衆という概念は,一方では〈人民people〉という概念と同一のものとされ,他方では〈愚民foule〉というマイナス・シンボルと同一視される。

 マルクス主義において大衆とは,価値の創造者,歴史の主体的存在としてみなされ,社会主義革命の担い手となる労働者,農民を意味する。しかし,大衆は組織や集団意識をもたず,つねに動揺と分裂の危険がともなっているため,これに統一と方向性を示すために,前衛党による指導が必要とされる。したがって,大衆とは,歴史における創造的価値を実現する存在として認められながらも,現実には,受動的・非合理的な存在としてあるといわなければならない。

 また,大衆の概念は,群集から公衆へ,さらに大衆へ,という連関でも考えられる。コミュニケーションの発展形態で分けると,会話や演説などのパーソナル・コミュニケーションで結ばれている集団が〈群集〉で,手動印刷機で印刷されたせいぜい数万部程度の新聞やパンフレット類の読者が〈公衆〉,そして現代のマスコミの受け手が〈大衆〉である。群集についての理論家としてル・ボンを,公衆についてはJ.G.タルドの名を挙げるとするなら,大衆のそれはオルテガ・イ・ガセットであろう。オルテガは,その代表作《大衆の反逆》(1930)で,共産主義とファシズムの政権奪取を眼前にしながら,大衆支配の時代の到来を説き,その危険性と可能性を鋭く指摘した。彼の思想の根底には,貴族主義,大衆蔑視の傾向があるが,19世紀に発展した資本主義経済と共和政治によって大衆の水準が飛躍的に向上し,その結果,過去数千年間支配されつづけてきた大衆が,エリート層に反逆し,時代の主役に躍り出ることを見抜いていた。社会学者マンハイムの《変革期における人間と社会》(1935)も,《大衆の反逆》とほぼ同時期に刊行された大衆論の古典である。なお大衆の特性は,エリートとの対比で決まる。エリートが洗練,高級とみなされれば,大衆は粗野,低級になる(大衆芸能,大衆小説,大衆酒場,大衆迎合など)。逆にエリートに高慢,浮薄,腐敗などの劣性を付与すれば,大衆は質朴,堅実,健康な存在として期待されることになる。
執筆者:


大衆 (だいしゅ)

仏教儀式(法要)の出勤者全体を指す用語。また一山の構成員である僧侶集団の意味もある。法要の主宰者(導師など)の下で,声明(しようみよう)の斉唱,楽器を奏する役,進行役,随伴役など種々の役割を分担する。法要の出勤者を指す職衆(しきしゆう),衆僧,列僧などもほぼ同様の意味合いである。声明の斉唱者集団は,讃衆,散花(さんげ)衆,梵音(ぼんのん)衆,平(ひら)衆などと称することもある。
衆徒大衆(しゅとだいしゅう)
執筆者:

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百科事典マイペディア 「大衆」の意味・わかりやすい解説

大衆【たいしゅう】

massの訳語だが,きわめて多様な評価をともなった多義的な概念。社会学用語としては公衆と対比的に使われることが多い。公衆とは利益の共有に基づいて自らの意見を表出し,討論を通しての社会的な解決をなし得る民主主義の担い手とされる。それに対して大衆とは,異質な属性を持つ匿名の多数者からなる未組織の集合体であり,マス・メディアに与えられる大量の情報と,消費社会を基礎づける大量の商品を処理する受動的な存在であるとされる。大衆は空間的に散在し,マス・コミュニケーションを通して間接的な接触をする点において群集とも区別される。資本主義の展開,または産業化の進展にともなって大衆と大衆社会が出現したとする見方を前提に,20世紀初期から〈大衆〉の存在様態とその性格について,たとえば大衆の衝動性や感情の表出に,非合理性と革新的性格の両義が読み解かれるなど,さまざまな議論が展開されてきている。また日本では,民衆とほぼ同義に用いることも多く,その場合たとえばマルクス主義の立場からは,現状変革のエネルギーをもつ存在とされるなどの事情が加わり,この概念をさらに複雑なものにしている。
→関連項目市民人民大衆操作大衆文化

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普及版 字通 「大衆」の読み・字形・画数・意味

【大衆】たいしゆう

衆人。〔礼記、月令〕(孟春の月)是のや、~(べい)(獣の子)をとること毋(な)く、卵をとること毋く、大衆を聚むること毋く、郭を置くこと毋く、骼(かく)(残)を掩(おほ)ひ、(し)(残肉)を埋めしむ。

字通「大」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大衆」の意味・わかりやすい解説

大衆
たいしゅう
masses

特定の組織化された人々の集団ではなく,無定形な無数の人々の集団。政治学,社会学の分野においては,社会のエリート層,すなわち指導者層に対する概念として一般の人々すなわち一般大衆 general publicを意味する。公衆 mass publicの概念ともほぼ同じである。大衆の概念は,能動的で自己の判断力をもった自立した市民によって形成されていた「近代市民社会」が,産業革命による資本主義社会の発達ならびにマス・コミュニケーション (大量情報伝達) 手段の発達に伴って,バラバラで互いに匿名性をもった多数の個々人の集合体によって構成される「現代社会」に変質したことで出現したものである。これには現代の民主主義社会のにない手としての有権者である大衆,という肯定的な側面と,エリートによって操作され,ある政治的目的のために動員される大衆,という否定的な側面とがあり,政治学,社会学の分野の論者によって強調する面が異なっている。

大衆
たいしゅう

「だいしゅ」ともいい,摩詞僧伽 Mahasamghaの訳語。元来一会の僧侶をいい,衆徒,学侶,学徒ともいった。平安時代以降,主として僧兵をさすようになり,寺院組織のなかで,これにあたる衆徒,堂衆および俗兵を総称するようになった。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「大衆」の解説

大衆
だいしゅ

衆僧・衆徒(しゅと)とも。一山一寺の僧侶の総称。とくに平安時代以降,南都北嶺の諸大寺に所属する僧侶集団をさし,法体(ほったい)の武力集団,僧兵も意味した。大衆僉議(せんぎ)とよばれる集団討議をへて,大挙して発向し強訴(ごうそ)に及んだ。強訴に際し延暦寺は日吉(ひえ)社神輿を,興福寺は春日社神木を押したてた。

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世界大百科事典(旧版)内の大衆の言及

【衆徒大衆】より

…平安時代以後,南都北嶺などの諸大寺に止宿して,論義法談の慧学や修法観法に専心した僧侶の総称。〈大衆〉のみの場合は〈だいしゅ〉とよむ。諸堂の管理や供華点灯などの雑用に従事した行人(ぎようにん)の上位にあって,行人とともに寺院大衆集団を構成した。…

【大衆文化】より

…ある社会で生産され提供される社会的機会・財貨・サービス・情報(精神的な富)を,その社会を構成する大衆がひろく享受する全状況をいう。つまり精神的な富の生産・流通・享受の過程と,その過程が社会および個人に対してもつ意義を含んでいる。…

【暴動】より

…非計画的な,組織をもたない自然発生的な集団的暴力行使で,初期的段階の内乱の一形態ともなる。暴動は,支配される側の大衆が,さまざまな不満を正規の政治システムを通じて解消できないとき,事前の計画も明確なリーダーシップもほとんどないまま,暴発的に行う暴力の行使である。歴史上,暴動の例は枚挙にいとまがないが,古代ギリシア・ローマの奴隷の反乱,中世ヨーロッパの農民一揆や日本の百姓一揆の多くや米騒動などがその例である。…

※「大衆」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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