改訂新版 世界大百科事典 「是害房絵詞」の意味・わかりやすい解説
是害房絵詞 (ぜがいぼうえことば)
鎌倉末期の絵巻物。現在までに十数本が知られているが,最古の京都曼殊院蔵上下2巻本(1354書写か)の奥書によると,原本は1308年(延慶1)冬,磯長寺(大阪府南河内郡磯長村にあった寺か)において,《宇治大納言物語》に取材し,童幼教化のために作成されたものという。ただし《宇治大納言物語》は散逸して明確ではないが,近似の説話は《今昔物語集》巻二十の〈震旦ノ天狗智羅永寿,此朝ニ渡レル語〉である。これを改変した詞書(ことばがき)と絵とを交互に置く。
執筆者:友久 武文 その内容は,是害房(是害坊)という中国から来た天狗が,叡山の僧と法力競べをして打ち負かされ,日本の天狗に介抱されて賀茂河原で湯治し帰国するという話。転写本のうち京都住友家本1巻は残欠本で,曼殊院本の下巻に相当する室町期の作例である。これらの詞書は片仮名交じり文で,画中に天狗どもの台詞が書き入れられている。なかでも曼殊院本は通常の絵巻とは異なり,墨筆で大まかに描いて力強い画風をみせる。
執筆者:田口 栄一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報