有付(読み)ありつく

精選版 日本国語大辞典 「有付」の意味・読み・例文・類語

あり‐つ・く【有付】

[1] 〘自カ五(四)〙
① ある場所に到着する。また、住みつく。安住する。
狭衣物語(1069‐77頃か)四「旅とな思し召しそ。今いとようありつかせ給ひなん」
今昔(1120頃か)一〇「亦、国に大水出でて人を流し里を失ふ。然れば、民有付く事難(かた)し」
夫婦となる。同棲する。
※宇治拾遺(1221頃)三「妹は〈略〉わざとありつきたる男となくて、ただ時々かよふ人などぞありける」
物事になれる。ある生活状態をしなれる。板についたふるまいをする。
源氏(1001‐14頃)蓬生「さるかたにありつきたりしあなたの年ごろは、〈略〉めなれて過ぐし給ふを」
④ あることが、自分の考えや趣味と一致する。納得する。下に否定語を伴うことが多い。
※源氏(1001‐14頃)総角「なほざりのすさびにても、けさうだちたることは、いとまばゆく、ありつかず」
⑤ ある身分や環境に生まれつく。
※源氏(1001‐14頃)蓬生「もとよりありつきたるさやうのなみなみの人は、〈略〉思ひあがるも多かるを」
⑥ (多く「世にありつく」の形で) 世の中に生活していく。暮らしを立てる。
※今昔(1120頃か)二七「京に有ける生侍(なまさぶらひ)、〈略〉世に有付く方も无(な)かりける程に」
仕官奉公する所を得て、生活が安定する。就職して落ち着く。
※仮名草子・大仏物語(1642)下「ありつくべき主君をばとらずして、〈略〉たれがための忠節になるべきぞ」
⑧ 植物が土に根をおろす。
※清良記(1629‐54頃)功者万作物の種子置様之事「扨植てはやく有付やうに土をかたむるかげん有」
⑨ 金、食べ物など望んでいたものを、やっと手に入れる。また、偶然手に入れる。
※仮名草子・清水物語(1638)上「世中に人のありつくをきくに、重代の重宝金銀をつかひ、おもはゆくまばゆきばかりたのむゆへに、それにめでてきもをいるか」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉四「愈(いよいよ)西洋料理に有り付いたなと思って」
[2] 〘他カ下二〙
① 住みつかせる。落ち着かせる。また、なれさせる。
御伽草子常盤の姥(類従所収)(1504‐21頃)「嫗を極楽へぐしてゆき、よからむ縁をたづねつつ、ありつけ候へ彌陀仏
② 仕官、奉公、結婚などをさせて生活を安定させる。
曾我物語(南北朝頃)四「今までありつけざるこそ、心にかかり候へども」
浄瑠璃・難波丸金鶏(1759)伏見京橋「そんなら私に預さんせ、一両日の内に有付(アリツケ)てやりませう」
③ (自動詞的に用いる) (一)①に同じ。
※虎明本狂言・目近籠骨(室町末‐近世初)「有付た事は被付たがようござる」
[3] 〘自カ下二〙 (「ありつけたり」の形で) そういう状態が、ずっと普通のこととなっている。これまでのならわしである。
※言継卿記‐天文二年(1533)八月二九日紙背「いまの時分はありつけたる事をさへなにかと申候に、新きなる事はいよいよふつそうの事にて候ほとに」

あり‐つき【有付】

〘名〙
① 目的地に到着すること。また、特定の場所、地位などにおさまること。特に、仕官、奉公、また、結婚などによって、その身の安定を得ること。
太閤記(1625)四「屋敷を相渡し、有付の用意を沙汰し置」
② ありつく所。落ち着く所。特に、仕官、奉公先。また、嫁ぎ先。
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第五「敵うつまて同し編笠 有付は野に臥山に鳥懼(おど)し」
※浄瑠璃・苅萱桑門筑紫𨏍(1735)四「それより武士奉公のあり付きなく、此国の土民となっては候へども」
③ ありつくもの。生活のかて。生計を得る道。
浮世草子・忠義太平記大全(1717)四「しった米糠あきなひとやらん、又、ありつきをかせぐうちに」

ありつかわありつかはし【有付】

〘形シク〙 (動詞「ありつく」の形容詞化) 似つかわしい。よい感じである。
※尾州家本住吉物語(1221頃か)「髪はうちぎのすそにすこし足らぬほどにて、ありつかはしきさままさりて見ゆ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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