日本大百科全書(ニッポニカ) 「村のロメオとユリア」の意味・わかりやすい解説
村のロメオとユリア
むらのろめおとゆりあ
Romeo und Julia auf dem Dorfe
スイスのドイツ系作家G・ケラーの短編小説。短編集『ゼルトビラの人々』(1856)第一巻中の名作。わずかな土地の所有権をめぐる多年の訴訟で零落した農家の幼なじみの少年と少女が、久しぶりに出会い激しい恋に落ちる。双方の親は和解する見込みもなく、いっしょになるすべもない2人は、思い余って家出を図り、よその村の祭りで1日の喜びを味わったあとで心中する。利欲に目がない親たちの醜い世界をよそに、哀れに咲いた清らかな悲恋の物語。巧みな対照の構成、象徴的深みに迫る写実的描写など、詩的リアリズムを目ざすケラーの特徴をよく示している。
[杉本正哉]
『草間平作訳『村のロメオとユリア』(岩波文庫)』