家族成員の誰かが他の家族成員に無断で家庭から抜け出ること。なお、養護施設からの家出のように、厳密な意味では上記定義に当てはまらないものの、社会的に大きな問題となっている例もみられる。そもそも「家族」や「家庭」の定義が時代や文化によって一様ではないこともあるが、いずれの場合もやはり「家族」や「家庭」をめぐる社会病理現象である点で、「家庭」や「家族」関係からの離脱という大きな理解枠組み自体は現代でも有効であるといえる。
[竹中祐二]
家出の型についてはさまざまな分類が論じられており、その多くは、家出の動機、家出および帰宅の意志、性格傾向、当事者が抱える問題背景、年齢層等によって整理されている。たとえば、家庭、学校、職場での不満や葛藤(かっとう)が高じて現状に耐えられず、そこから逃れようとする「現状逃避型」、自分自身は家庭関係に問題がないのに、友人などの悩みや不幸に同情してなされる「他人同情型」、家庭関係自体には問題は少ないが、味気ない生活に嫌気がさすか、都会に対するあこがれなど、なんらかの欲求充足のためになされる「欲求充足型」など、時代や年齢、性別を超えて共通する類型がある。またその反面、「精神病理型」「出稼ぎ遺棄型」「非行関係型」等のように、問題となる論点をめぐる社会の反応が時代とともに変化しているもの、あるいは社会の変化に伴ってそういった行動様式がとられなくなっているものなどもあり、時代背景に応じた分類と理解が必要である。ただし、家出に関する統計自体に制約があること、それゆえ分析においても一定の限界が生じること、また単一の要因によってではなくさまざまな事情が重なり合った結果として家出が行われること、などの制約を受けることについては広く認められているところであり、注意が必要である。
なお家出は、蒸発、無断外泊等の現象とあわせて論じられることが多かった。現代では帰属集団をもたず孤立する「無縁社会」化や引きこもり等が新たな社会病理現象として認識されてきている。集団関係からの離脱を積極的に選択する、もしくは選択せざるをえない状態に追い込まれるという点では、家出も同様の問題性を有しているといえる。さらに、2000年代以降大きな社会問題となっている自殺について、家出との関係が深い点には古くから言及されており、社会病理学的にはけっして無視できない問題である。
[竹中祐二]
2010年(平成22)から、警察庁は捜索等に関する「家出人」という名称を「行方不明者」へと変更し、すでに述べたような孤立化、無縁社会化が進む社会情勢への対応を図っている。2001年から2003年に警察が行方不明者届を受理した人数は年間10万人を超えていたが、2011年には8万1643人となっており、一貫して減少傾向にある。男女別にみると、1982年(昭和57)以来、男が女を上回っており、2011年では男は62.5%と女より約2万人多いが、1999年(平成11)ごろからおおむね2万人前後の差で推移している。年齢別では、19歳以下が1万9056人(全体の23.3%)といちばん多く、次いで70歳以上、20歳代、30歳代の順となっている。これを人口比でみると、20歳代、19歳以下、70歳以上、30歳代の順となっている。他の年代が減少傾向にあるのに対して、70歳以上のみ増加傾向にある。
家出の原因・動機は、捜索願の資料の関係上「その他」が多いのが問題であるが、男女、年齢を通じて全体的には家庭関係が特徴的に多い。過去には性別による動機の分類があったが、2011年のデータでは明らかにされていない。
70歳以上の家出が多いことについては、社会全体の高齢化が影響していることが容易に推測される。19歳以下の家出が多いことについては、携帯電話やインターネット・カフェ、出会い系サイトの普及が影響していると考えられ、「神待ち」と称して住居や食事を提供してもらう相手を探す例がある。その他、「プチ家出」として短期間の家出を繰り返したり、窃盗や強盗、もしくは違法業種への低年齢での従事によって生活費を稼いだりするなど、非行全般の動向とも密接に関係している。
[竹中祐二]
『市岡典三・藤本和男著『家出相談』(1974・大成出版社)』▽『小関石男著『家出――その生々しい事実の記録』(1975・日本経済通信社)』▽『竹内郁郎編『「家出」に関する研究』(1993・東洋大学社会学研究所)』▽『鈴木大介著『家のない少女たち――10代家出少女18人の壮絶な性と生』(2008・宝島社)』▽『野々山久也編『論点ハンドブック家族社会学』(2009・世界思想社)』▽『鈴木大介著『家のない少年たち――親に望まれなかった少年の容赦なきサバイバル』(2011・太田出版)』
家族のある成員が無断で家族から逸脱する行動。家出の動機は大まかに二つに分けられる。(1)精神的緊張や欲求不満を家族から離れることによって消極的に解消しようとするもの。家族員間における不和葛藤,価値観の対立,あるいは仕事・学校関係における人間関係の破綻などから家出する場合である。当人は家族あるいはその環境にいづらくなり,匿名性の高い場に逃避することによって問題を解消しようとするのである。(2)自己の目的を達成するために積極的に家族を放棄するもの。〈駆落ち〉や外部に自分の理想や目標を求めて家出するなどである。この場合,価値観の対立などのために自己表現できずにいる者が,家出を契機として〈自立〉しうることもある。また,都会に漠然たる夢を抱いて郷里を出てくる者もいる。
家出は社会の近代化,都市化にともない増加する傾向にあり,日本では1960年代以降に質的変化が見られる。経済の高度成長,都市化の促進などがその要因とされる。高度成長以前の日本社会では農村の自給性や閉鎖性が強く,家族,共同体における個々人の役割分担もほぼ決まっており,共同体的規制も強かった。したがって,人間関係の破綻などが生じた場合,家族,共同体からの離反によって問題を解消しようとした。この中には家族全体が共同体から離反するということも含まれる(小作料支払不能,事業の破産などのときにみられる)。農地改革,高度経済成長の過程で共同体はしだいに解体され,家族員個々の主体性が重んじられてきた。一方,家庭電器に象徴される商品の急増は,家族員個々の購買欲をあおり,労働力市場への家族員の進出へと波及していく。季節労働,長期出稼ぎ,あるいは集団就職などで郷里を出た者がそのまま行方をくらませることが増えてきたのはこのころからである。60年代後半に流行語となった〈蒸発〉はこの種の家出人に多かった。蒸発とは,まわりの人からみればなんの動機もなしにある日突然姿をくらませてしまうことで,社会構造が複雑になってきた現代社会にあって,情緒的不安・緊張から精神障害をおこしたり,人間関係を嫌悪して逃避的行動に出る者が増えている。家出人の実態を把握するのは難しいが,近年,警察に捜索願が出されたものだけで全国で毎年10万件前後はある(家出人届出件数に関する統計は県レベルでは1963年,全国レベルでは73年から取られている)。その約4割が10歳代の少年少女で,最近は少女の家出が目だつ傾向にある。家出人のなかには犯罪,非行,自殺などの社会病理とかかわる場合も少なくない。
執筆者:大橋 薫
江戸時代,家出は伊勢参りや金毘羅詣でといった神社仏閣への信心参詣によるもの,生活困窮によるもの,不行跡のための出奔などがある。宝永,明和,文政,天保とくりかえされた伊勢神宮へのお蔭参りは,無断失跡という家出人たちを含んで数万人規模となったのである。家出は個人単位の行動が多いが,主人も含め家族全員のもある。大坂心斎橋近くの菊屋町で,1835年(天保6)の住民127戸のうち,転出は29戸,うち家族全員の家出は4戸,単身の家出が1人である。家出がみられた場合,30日後に家族または町名主などから届出が出されて人別帳から除かれることになる。もっとも何年かたって立帰りとなって,ふたたび帳付けされる事例もみられる。越中礪(砺)波の井波町は人別帳のほかに家不持人別書上申帳という別帳面をつくり,家出人である〈走り人〉を含め,現実に居住していない者の調査を行っている。この帳面には,城下町金沢や近辺の農村部に移っている者が多いが,なかには便りがあったというだけで詳しい動静が記録されていないものもある。都市,農村をとわず,近世後期にはこうした家出人たちの増加などにより戸数,人口の減少がみられた。
執筆者:松本 四郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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