日本大百科全書(ニッポニカ) 「東西美術論」の意味・わかりやすい解説
東西美術論
とうざいびじゅつろん
Les Voix du Silence
フランスの作家アンドレ・マルローの芸術論集。1951年刊。原題は『沈黙の声』。『東西美術論』は翻訳刊行に際して訳者小松清(きよし)のつけた題名。『空想の美術館』(1947)、『芸術的創造』(1948)、『絶対の貨幣』(1950)の三冊をあわせた合本である。マルローはここで、美術作品のおびただしい数の複製写真により、時代も国境も無視して藤原隆信(たかのぶ)とワトーの絵を並べ、シュメール彫刻とドガの作品を向かい合わせ、現実にない想像上の華麗なる美術館を紙上につくりだし、そこに収めた作品による感動を通じて、改めて文化とは何か問いかけ、神の死んだ現代に人間を救済するものとしての芸術についての省察を繰り広げている。芸術作品に対するまったく新しい見方を提起するとともに、第二次世界大戦後、小説の筆を絶った作者の思想の転機を示唆するものとして重要な意味をもつ作品である。
[渡辺一民]
『小松清訳『東西美術論』全三巻(1957~58・新潮社)』