日本大百科全書(ニッポニカ) 「権八小紫」の意味・わかりやすい解説
権八小紫
ごんぱちこむらさき
歌舞伎(かぶき)、浄瑠璃(じょうるり)、音曲(おんぎょく)中の登場人物。また、これを扱った作品の総称。寛文(かんぶん)・延宝(えんぽう)(1661~81)のころ、もと鳥取藩士平井権八が同藩の本庄(ほんじょう)助太夫を討ち、江戸へ出て吉原の遊女三浦屋小紫となじみ、金に詰まって辻斬(つじぎ)りをはたらき、1679年(延宝7)鈴ヶ森で処刑され、小紫も後を追って自害したという実話による。1779年(安永8)初世河竹新七作の『江戸名所緑曽我(えどめいしょみどりそが)』が最初といわれ、その後も多くの作に白井権八の名で登場する。また、史実では年代が異なり交際のなかったはずの侠客(きょうかく)幡随院長兵衛(ばんずいいんちょうべえ)が絡む筋の多いのが特色である。今日の『鈴ヶ森』の原作『幡随長兵衛精進俎板(しょうじんまないた)』(初世桜田治助作)と『浮世柄比翼稲妻(うきよがらひよくのいなずま)』、清元(きよもと)『其小唄夢廓(そのこうたゆめもよしわら)』などが有名な作品である。
[松井俊諭]