内科学 第10版 「正常髄液の性状」の解説
正常髄液の性状(脳脊髄液検査)
a.髄液中の物質の正常値とは
髄液中の物質を分析して臨床的意義をもたせるには,2,3の注意が必要である.第一に,髄液中の物質は概して微量にしか存在しないことが多く,その測定には高感度定量法が要求される.第二に,血液中にも同じ物質が存在する場合,血液脳関門(BBB)の機能状態を知る必要がある.第三に,健康人から髄液を得ることは一般的には不可能なので,基準値を決めることは難しい.これらの制限に比較的耐えうる検査項目について,腰椎部髄液の基準範囲を示す(表15-4-1).
b.髄液総蛋白量,IgG インデックスなど
血液に比較すると髄液は希薄蛋白溶液であり,細胞数は極端に少なく,クロール値は高い.小児では成人より低値であり,成人では年齢とともに軽度増加傾向を認める.髄液に特徴的に認められる蛋白質として,プレアルブミン(トランスサイレチン)とtau分画(脳由来トランスフェリン)がある.多くの髄液蛋白質の脳内での生理的意義は不明である.
血清蛋白質・酵素のほとんどすべては髄液中にも存在すると考えられているが,なかでも臨床に最も応用されているのがIgGである.正常状態では血液から髄液へ移行したものとされている.神経疾患時に中枢神経系内IgG生産を知る目的で,IgGの髄液・血液の濃度比をとり,アルブミンの髄液・血液濃度比(albumin ratio)で除した値,すなわちIgG インデックスを使用している.同様の計算で,脳内ウイルス感染症を知るためウイルス抗体価のインデックスを求めることがある.一方,アルブミン比は,BBB破壊の有無を知るための簡便な方法として頻用されている(表15-4-1).
c.髄液糖濃度
生理的条件下では,血糖値の変動と並行して髄液の値は変化する.しかし定常状態での実験結果では,髄液グルコース濃度が血中のそれと平衡に達するのは約2時間後である.そのため少なくとも4時間以上食事摂取のない状態(できれば一晩睡眠後朝の空腹時)で得られた髄液と血液について糖濃度を比較すると,腰椎部髄液は血液の6~8割の糖値を示す.[安東由喜雄]
■文献
Davson H, Welch K, et al: The Physiology and Pathophysiology of the Cerebrospinal Fluid, pp 247-267, pp 583-656, Churchill Livingstone, London, 1987.大石 実,他:神経内科臨床トレーニング.医学書院,東京,1991
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報