脳脊髄液ともいう。脳室,中心管およびくも膜下腔を満たしている間質液またはリンパ液によく似た組成の液で,全量100~150mlの1/2は脳部に,1/2は脊髄部にある。髄液は側脳室および第四脳室の内壁にある脈絡叢から毎分0.26~0.65ml分泌され,第四脳室の正中口および外側口を通って脳室の内から外へ流出し,小脳延髄槽,橋槽,テント切痕を経てテント上に達した後,大脳半球外表を上行し,上矢状静脈洞内へ陥入しているくも膜顆粒を通って血中に吸収される。この循環により1日に3~4回全量が更新されるという。
髄液圧は,腰椎穿刺(せんし)の場合,臥位で12~15cmH2O,座位ではこれより5cmほど高い。頭蓋内では0または多少陰圧であり,頭蓋内圧に等しい。髄液の機能としては,脳および脊髄を浮かべることによりそれを支え,それにかかる重力その他の外力を髄膜とその支持組織の全体に均等に分配している。また脳のリンパ液として働き,過剰な細胞外液を排出し,脳組織の性状を恒常に保っている。したがって髄液の様相は中枢神経系の状態をさまざまの程度に反映しており,その検査は神経疾患の診断に有用な手がかりを与えてくれる。
髄液圧は,脳腫瘍,髄膜炎,水頭症などで上昇する。髄液の外見や細胞成分も重要で,脳内出血では血性となるが,乏血性梗塞(こうそく)ではならない。また化膿性髄膜炎では好中球がより増加し,ウイルス性あるいは真菌性髄膜炎ではリンパ球がより増加する。またこれらの病原体を同定できることもあり,脳腫瘍や髄膜癌腫症などでは腫瘍細胞が検出されることがある。髄液タンパク質は腰椎穿刺液で15~45mg/dlであるが,炎症や腫瘍で増加する。多発性硬化症ではとくに免疫グロブリンGが増加しており,増悪期には髄鞘崩壊産物も検出される。髄液糖値も有用で,結核性,真菌性あるいは腫瘍性髄膜炎では著しく低下する。そのほか脳脊髄内のシナプス伝達物質の動向によって,そのニューロンの活性をある程度推定しうる。
→髄膜
執筆者:水沢 英洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
脳脊髄(せきずい)液ともいい、脳室およびくも膜下腔(かくう)を満たしている液で、その総量は100~150ミリリットルといわれ、脳および脊髄を浸しながら絶えず循環している。その大部分は脳室(おもに側脳室)の脈絡叢(そう)で生成され、延髄背側の第四脳室にある小さいマジャンディMagendie孔およびルシュカLuschka孔とよばれる出口を通って脳室系からくも膜下腔に入り、脳と脊髄のくも膜下腔を循環し、上矢状(じょうしじょう)静脈洞の中に突出しているくも膜顆粒(かりゅう)を経由して静脈洞に吸収される。髄液は脳と脊髄を包み、骨と脳との間にあって滑剤のように作用し、また外からの機械的衝撃に対しては、クッションのように作用するなど、主として脳と脊髄を保護する役割を果たしている。
中枢神経系の病気の際には、髄液は病気の診断の重要な資料となるので、腰椎(ようつい)あるいは後頭下の部位でくも膜下腔に針を刺し(腰椎穿刺(せんし)あるいは大槽穿刺)、髄液圧を測定したり、髄液を採取して混濁や凝固の有無、色調など外観を見たり、細胞や各種反応を検査したりする。
[海老原進一郎]
くも膜下腔に穿刺した針にマノメーター(圧力計)を接続して測定する。健康成人の髄液圧は臥位(がい)で70~150ミリメートル水柱であるが、圧測定中に咳(せき)をしたり、力んだり、頸(けい)静脈を圧迫すると、圧は上昇する。髄液圧は脳腫瘍(しゅよう)や髄膜炎、脳血管障害の急性期に高くなる。くも膜下腔が閉塞(へいそく)するような中枢神経系の病気があると、頸静脈を圧迫しても圧は上昇しない。
[海老原進一郎]
正常な髄液は水様透明であるが、髄膜炎などで髄液中に白血球が多数混ざると、髄液は混濁する。そのほか、髄液のタンパク含有量が増加すると、髄液は黄色調を呈し、採液後に液が自然凝固したりする。脳出血やくも膜下出血などで髄液中に赤血球が混じると、髄液は血性あるいは黄色調となる。
[海老原進一郎]
脳や脊髄は、頭蓋骨や脊柱がつくる空間に満たされた髄液という液体のプールに浮いたような状態で存在しています。その構造から、脳に対する一種の衝撃吸収装置の役割も果たしていると考えられます。
髄液は脳の中心部にある脳室という場所にある
この液体の一部を採取して成分を検査したり、圧力を測ったりすることにより、脳脊髄で何が起きているかを知ることができます。水頭症では圧が異常に高くなり、中枢神経感染症では、白血球が多くみられることがあります。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
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