血液(読み)けつえき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「血液」の意味・わかりやすい解説

血液
けつえき

血管の中を流れる赤色の流動組織をいう。その流れの速さは安静時でも1分間に全身を1回りするほどで、運動時にはその数倍にも達する。血液の働きは、おもに流れることによって物質を運搬することにある。物質の運搬とは次のようなものである。

(1)肺から取り入れた酸素を組織細胞にまで運び、組織からは二酸化炭素(炭酸ガス)を肺に運んで外界に放出させる。

(2)消化管から吸収された栄養素をまず肝臓まで運び、ついで全身の細胞まで運搬する。

(3)組織の分解産物で生体に不要となったものなどを腎臓(じんぞう)に運び体外に排泄(はいせつ)させる。

(4)内分泌腺(せん)から血液中に分泌されたホルモンを、その作用する器官・組織にまで運ぶ。

(5)体温を均一に保つ。体温が均一に保たれるのは、安静状態では肝臓、心臓、腎臓などの内臓で、運動時には筋肉などでつくられる体熱を、血液が循環して、全身に均等に分布させるという働きによるものである。

 そのほか、生体に侵入する細菌、異物などを破壊、無毒化するなどの生体防御作用も備えている。

[本田良行]

血液の成分

血液を試験管に入れ、光に透かしてみると不透明に濁ってみえる。これは、赤血球などによって光が散乱されるためである。これらを有形成分とよび、赤血球、白血球、血小板などからなっている。有形成分以外は血漿(けっしょう)とよばれ、両者をあわせて全血という。全血に対する有形成分の百分比をヘマトクリットhematocritといい、その値はおよそ男子で45%、女子で42%である。この男女差は、有形成分のほとんどを占める赤血球数の違いによる。ヘマトクリット値の測定には、血液を均一な内径の試験管、または細いガラス毛細管にとって遠心分離すると、比重の大きい有形成分が下に沈むので、その沈殿層の長さから計算される。普通、赤血球と血漿の比重は1.1と1.03、全血の比重は1.06くらいである。

[本田良行]

血液の作用

血液の粘度は試験管内では水の約4.5倍もある。しかし、実際の生体内では、血管内を流れる血液の速さによっても粘度は左右され、流速が遅いほど粘度が高くなる。また、同じ流速の場合は、ヘマトクリット値が高いほど粘度が高くなる。この粘度の大小によって血流に対する抵抗が左右される。つまり、血流速度が遅く、ヘマトクリット値が高いほど血流抵抗が大きくなって、血液はますます流れにくくなるわけである。これは、病気の末期などによくみられる現象である。また、赤血球が増えすぎる(多血症)と血液が流れにくくなって、かえって組織の栄養障害がおき、逆に貧血になると血流抵抗が減少され、低血圧となってさまざまな障害が引き起こされることになる。

 血液を蒸留水の中に入れると、赤血球の膜が破れ、中からヘモグロビンが出てきて透明な赤色の液となる。これを溶血とよぶ。また、血液を2~3%の濃い食塩水に入れると、赤血球はクワの実状に縮んだ形となる。0.9%の食塩水(生理的食塩水)に血液を入れると、赤血球は変形しないで保存することができる。これは、生理的食塩水と血液の浸透圧とが等しいからである。その圧は約7.8気圧にもなるが、大部分は血液中の電解質によるものである。

 血液の水素イオン指数(pH)は7.4くらいで、1日の変動はせいぜい0.2以内である。pH7.0以下および7.6以上では長く生存することはできない。生体内では二酸化炭素をはじめとして硫酸、リン酸、さまざまの有機酸というような、血液のpHを変化させようとする物質が絶えず産生されている。それにもかかわらず、その値が非常に狭い範囲内に一定に保たれている(これを血液pHの恒常性とよぶ)のは、次のような働きによる。第一の働きは、血液自体に含まれるヘモグロビン、血漿タンパク、炭酸水素イオン、リン酸塩などによる物理化学的な緩衝作用によるものである。第二の働きは、呼吸による二酸化炭素の体外への排出と、腎臓による炭酸以外の酸を尿中に排泄する作用である。前者は1規定の酸にして1日十数リットル、後者は70~80ミリリットルくらいに達する。この第二の働きは生理的緩衝作用とよばれる。

 血液の量は体重のおよそ8%である。体重60キログラムのヒトでは5リットル弱が血液量となる。血液は毛細管壁を介して約その倍量の組織液、さらに、この両者の合計の倍量にも及ぶ細胞内液と接触しており、絶えず物質の交換を行っているわけである。また、腎臓から排泄される尿量は、血液の浸透圧をよく反映して血液の濃縮と希釈を防ぐように働いており、かなりの出血をしたり、多量の水分をとった場合でも、血液量の変化はほんのわずかですむこととなる。

[本田良行]

赤血球

ヒトの赤血球は中央がへこんだ円板状で核がない。直径は約8マイクロメートル、厚さは中央で約1マイクロメートル、周辺で約2マイクロメートルである。赤血球は動物の種類によって異なり、鳥類、爬虫(はちゅう)類、両生類、魚類などでは有核である。ヒトの赤血球の形態は、できるだけ多くのヘモグロビンを含み、酸素の出入りに好都合なように進化したためと考えられている。赤血球の数は、1立方ミリメートル中に成人男子でおよそ500万、女子で450万である。したがって、身体全体での赤血球数は25兆にもなる。また、1個の赤血球の表面積は約100平方マイクロメートルであるから、全部で3000平方メートル(体表面積の約1700倍)となる。このように、ヒトは多数の赤血球による広い面積を体内にもつことにより、絶えず酸素と二酸化炭素の出し入れと運搬が可能となっている。赤血球の造血は、胎児の初期には肝臓や脾臓(ひぞう)で行われるが、後半からは骨髄で行われるようになる。出生後の造血は、初めは全身の骨髄で行われるが、成人に達するまでに、しだいに短骨、扁平(へんぺい)骨の骨髄だけで行われるようになる。造血を促すホルモンとしてエリスロポエチンerythropoietinがある。このエリスロポエチンは、たとえば高山に登るなどによって酸素欠乏をきたしたときに産生亢進(こうしん)し、おもに腎臓からその分泌が行われる。

 赤血球は古くなると、主として脾臓や肝臓にあるマクロファージ(大食細胞)によって破壊される。破壊された赤血球内のヘモグロビンは、肝臓で処理されて胆汁色素として十二指腸内に排出される。便が着色されるのはこの色素によるためである。赤血球の平均寿命は120日であり、毎日、全赤血球の0.8%が壊されている。その量は毎秒200万個以上という莫大(ばくだい)な量である。しかし、生体は破壊に見合った数の赤血球を絶えず新生するので、全赤血球数にはすこしの変化もおこらない。

[本田良行]

ヘモグロビン

赤血球内に約35%の高濃度で含まれる色素タンパクで、血色素ともいう。鉄を含んだポルフィリン化合物のヘムとグロビンというタンパク質からできているため、ヘモグロビンとよばれる。1個のヘモグロビン分子はα(アルファ)とβ(ベータ)という構成成分を2個ずつ含んでいる。その各成分は、それぞれ1個の酸素分子と結合するので、合計4分子の酸素がヘモグロビンによって運ばれることとなる。ヘモグロビンは複雑な立体構造をもち、とくにαとβの組合せ状態は四次構造とよばれる。この四次構造は酸素や二酸化炭素の出入りとともに変化し、生体におけるこれらの物質運搬に好都合なように働いている。ヘモグロビンは酸素との結合、放出に伴って鮮紅色から暗赤色へと変化する。血液1リットルによって結合可能な酸素量は約0.2リットルである。

[本田良行]

白血球

白血球は血液1立方ミリメートル当り6000~8000個で、赤血球の500ないし1000分の1くらいである。しかし、種類は豊富で、顆粒(かりゅう)白血球である中性好性、酸好性、塩基好性のほか、リンパ球、単核細胞などがある。こうした白血球のうち主要な種類は中性好性白血球(好中球)で全体の約60%、ついでリンパ球の30%である。白血球の働きを総括すれば生体の防御作用にある。その一つは、侵入した細菌、異物などを直接貪食(どんしょく)する作用である。このためには、白血球は目的の場所までアメーバ運動によって到達しなければならない。この性質は遊走性とよばれ、とくに中性好性白血球によく発達している。したがって、急性の感染症などのときにはこの白血球が真っ先に増加する。一方、単核細胞は遊走性は低いが、中性好性白血球の10倍も細菌を貪食する力があるため、慢性の感染症などのときには、この白血球が増加することになる。リンパ球は外見は同じだが、T細胞、B細胞、NK細胞の3種類があり、T細胞はさらに免疫応答を活性化するヘルパーT細胞、免疫応答を抑制するサプレッサーT細胞、ウイルスや細菌などの異物を攻撃するキラーT細胞に分かれる。一方、B細胞は免疫グロブリン(Ig)をつくることによって細菌、毒素などを無力化する。また、アレルギー、アナフィラキシーなどのいわゆる免疫に関係した生体反応の発症にも関係する。免疫グロブリンにはIgM、IgG、IgA、IgD、IgEの5種類がある。このうちIgGが全体の75%を占め、IgEはアレルギーに関係する。NK細胞はがん細胞などの異物を攻撃する。

 白血球数が1立方ミリメートル当り5000以下になると白血球減少症とよび、危険となる。とくに顆粒白血球減少症の場合、その数が2000以下になると身体の抵抗力が極度に衰え、死亡率が非常に高くなる。白血球は赤血球のように血管内だけにとどまっていないで、組織やリンパ内にどんどん出ていくため、その寿命を正確に測定することはむずかしいが、一般的には、中性好性白血球などの顆粒白血球の寿命は10日前後、リンパ球の大部分は100~200日、一部は3~4日とされている。

[本田良行]

血小板

血小板は、骨髄の多形核巨大細胞という直径35~160マイクロメートルの細胞原形質内にでき、この細胞の崩壊とともに流血中に放出される。血小板は無色で、球形、卵円形、桿(かん)状とさまざまな形をとり、直径2~4マイクロメートルの無核の細胞片である。電子顕微鏡でみると、ミトコンドリア、リボゾームなどのほか、直径0.2~0.3マイクロメートルの球形の顆粒が充満している。この顆粒には、セロトニンとアデノシン二リン酸(ADP)を含むものと、加水分解酵素とカルシウムを含むものとがある。血小板は血液1立方ミリメートル中に25万~35万個の範囲に調節されている。血小板は、血管が破れたところに露出した膠原(こうげん)線維に粘着する。セロトニンは破れた血管を収縮させ、ADPは他の血小板を引き付けて血小板の塊(白色血栓)をつくるのに役だつ。さらに、血小板中の第三因子は、血液の凝固に際して働くトロンボプラスチンの形成に役だっている。このように、血小板は出血を止めるうえで重要な働きをしているわけである。

[本田良行]

血漿

血球以外の血液成分を血漿といい、その91%くらいが水分である。おもな無機成分としてはナトリウム、カリウム、カルシウム、塩素(クロール)、リン酸、炭酸水素イオンなどがある。これらの濃度は血液の浸透圧を決めるうえで重要である。有機成分としては、まずブドウ糖があり、これは血漿100ミリリットル当り70~90ミリグラム含まれている。ブドウ糖は細胞の代謝活動のエネルギーを供給するうえで、もっとも重要な栄養素である。その濃度は、インスリン、グルカゴン、成長ホルモン、カテコールアミンなどの種々のホルモンのバランスによって巧みに調節されている。次に重要な有機成分は血漿タンパク質である。血漿タンパク質は血漿中に6.5~8.0%の割合で含まれており、アルブミンとグロブリンに分けられる。この血漿タンパク質は、各種細胞の栄養源や、さまざまな機能性タンパクの運搬、膠質(こうしつ)浸透圧による血液・組織液間の液量のバランスを保つといった働きのほか、緩衝作用によって血液pHの恒常性を維持する、血液凝固に必要なタンパク質を供給する、免疫グロブリンを含み、生体の防御作用に参加する、などの重要な働きをもっている。なお、血清とは血液凝固が完了したのち、凝固塊の周囲に残る黄色透明な液体をいい、その成分は、血漿成分のうち、凝固に際して析出したフィブリノゲンを除いたものである。

[本田良行]

血液ガス

血液によって運搬される酸素、二酸化炭素、さらにそれらによって規定される血液pHを総称して血液ガスとよぶ。安静時においても生体は、細胞の代謝活動のために毎分約250ミリリットルの酸素を必要とする。しかし、血液によって運搬可能な酸素の容量は最大で毎分約1リットルにしかすぎない。したがって、数分間血液の流れが止まっただけで生体はただちに強い酸素欠乏に陥ることになる。一方、二酸化炭素は水と反応して炭酸となり、酸として働く。その量は、1日に1規定の酸にして十数リットルにも達するため、血液によって運搬されて、肺から放出されないと血液pHの低下により強い酸血症となる。血液ガスの運搬は絶えずダイナミックに行われて、すこしも休むことがない。この仕組みこそが、人体の血液循環を語るとき、もっとも大きな特徴といえるわけである。

[本田良行]

動物における血液の系統発生

無脊椎(せきつい)動物は一般に開放系の血管系をもち、脊椎動物の血液は閉鎖血管系の中を流れている。脊椎動物の血色素は赤血球に入っているが、無脊椎動物の多くのものでは、血色素は血漿中に溶けている。血色素のうち赤血球中にあるのはヘモグロビンとヘムエリスリンだけで、ヘモグロビンは脊椎動物のほとんどすべてにあり、無脊椎動物ではヘモグロビンの分布と系統樹の間に一定の法則はない。昆虫でヘモグロビンがあるのはユスリカ、ウマバエなどの幼虫だけである。環形動物ではヘモグロビンが血球内と血漿の両方に存在するものもある。軟体動物にはヘモグロビンとヘモシアニンがあるが、ヘモグロビンが血漿内にあるもの(ヒラマキミズマイマイ)と血球内にあるもの(アカガイ)がある。原生動物にもゾウリムシやテトラヒメナにはヘモグロビンがある。甲殻類のミジンコでは通常の酸素濃度の水中ではヘモグロビンができないが、酸素量が約3分の1に下がるとヘモグロビンが生じて体色が赤みを帯びる。このような個体が大量に増殖したものが赤潮である。ヘムエリスリンはヘモグロビンと同様に鉄を含む呼吸タンパク質で、酸化すると赤紫色、酸素を放出すると無色になる。星口(ほしぐち)動物のホシムシ類、袋形(たいけい)動物のエラヒキムシ、触手動物のシャミセンガイなどの血球中に存在する。クロロクルオリンも鉄を含み、無脊椎動物の血漿中にある緑色の色素である。ヘモシアニンは軟体動物(腹足類、頭足類、双神経類など)、節足動物(甲殻類、クモ類、昆虫)の血リンパ液中にあり、銅を活性中心にもつ呼吸タンパク質で、酸素と結合すると二価銅になり青色をしているが、酸素を放出すると一価銅となり無色に戻る。特異な血色素としては、ホヤなどの被嚢(ひのう)類の血球(バナドサイト)や体胞液にあるバナジウムvanadium、クロモゲンchromogenがある。しかし、バナジウムについては、この物質が呼吸色素として働くという説は確定していない。

[大岡 宏]

動物における血球の系統発生

海綿動物には循環系がないが、アメーバ様の運動をする遊離細胞がある。吸虫類以上の動物には不完全な循環系があり、白血球が存在する。無脊椎動物にはさまざまな形をした白血球があり、リンパ球に近いものやマクロファージ様のものは下等な生物から存在し、やや高等になると顆粒や封入体をもち、多くの種類に分かれる。無脊椎動物の赤血球もいろいろの形態をもち、細胞質内に顆粒を含んでいて、赤色素は顆粒に含まれている。これらの赤血球は同時に白血球としての機能も備えている。脊椎動物の赤血球は非運動性で、哺乳(ほにゅう)類では核がなく小形であるが、他の脊椎動物の赤血球は有核で、両生類の有尾類などのように巨大な赤血球もある。血球がつくられる場所は、魚類、両生類では脾臓などの間質、腸、循環系の中などであるが、爬虫類以上では骨髄が主となる。なお、血液のことを血ともいうが、血には血縁など象徴的な意味も含まれている。

[大岡 宏]

『高木健太郎・岡本彰祐編『生理学大系Ⅱ 血液・呼吸の生理学』(1968・医学書院)』『岡本歌子著『血液』(光文社・カッパブックス)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「血液」の意味・わかりやすい解説

血液
けつえき
blood

多細胞動物において,おもに各組織における新陳代謝の媒介をする体液。血液は心臓から体内のあらゆる部分に供給される輸送液であり,この経路を血管系という。単細胞動物と最も小さな多細胞無脊椎動物では,体外から直接,酸素と栄養物を吸収したり老廃物を排出することができるため血管系はない。海綿動物刺胞動物も,体内を移動する海水,または真水で栄養物や酸素を運ぶための血管系はない。血管系はより体が大きく複雑なつくりの動物で発達した。こうした動物では血液が呼吸交換膜(肺)を通して細胞の代謝に不可欠な酸素を取り入れ,老廃物の二酸化炭素を捨てたり,消化器管から栄養物を吸収し体中の細胞に運んだり,水溶性の有害老廃物を排泄器官へと運ぶ働きをしている。
血管系には開放系と閉鎖系の 2種類がある。開放系は血液が血管から出て体内の組織に直接流れ込むもので,昆虫類クモ類甲殻類などの節足動物と,ほとんどの軟体動物に見られる。酸素を供給する速さという点からは効率が悪く,二枚貝類カタツムリのようにあまり活動的でない動物に適している。非常に活動的な昆虫類が開放系であるという事実はこれと矛盾しているが,昆虫類は酸素の供給を血液ではなく気管に依存しているので問題はない。閉鎖系は血液が血管から出ることはなく,血液と組織との物質交換は毛細血管の壁を通して行なわれる。脊椎動物イカタコなどの頭足類環形動物がこのような血液循環経路をもつ。魚類以外の脊椎動物は,心臓から送り出された血液は肺で酸素を得て,いったん心臓へ戻ってから体中に運ばれる。肺をめぐる経路を小循環,全身をめぐる経路を大循環と呼ぶ。
血液の組成は,動物界のグループによって異なる。ヒトでは約 55%の液体成分(血漿)と約 45%の有形成分(赤血球白血球血小板)からなる。ヒトの血漿は淡黄色をしており,その 90~92%は水分で 6~8%が蛋白質(血漿蛋白質)である。そのほかに塩類,ブドウ糖(→グルコース),脂肪,アミノ酸,二酸化炭素,窒素老廃物,ホルモンなどが溶解している。血漿の働きには (1) 栄養素,老廃物,血液細胞の運搬と媒介,(2) 血圧の維持,(3) 体温の維持,(4) 血流と体内の酸塩基平衡の維持がある。血漿蛋白質はアルブミンフィブリングロブリンからなる。その機能は浸透圧をつくり出して毛細血管から水分と溶解物質が過剰に失われるのを防ぐ(アルブミン),凝血塊を形成して出血を止める(フィブリン),抗体として微生物や有害物質から体を守る(γ-グロブリン),脂質やステロイド,糖,鉄,銅,遊離ヘモグロビンなどを運搬する(α-グロブリンとβ-グロブリン)ことである。これらのグロブリンには,ある種の血液凝固因子も含まれている。ヒトを含む哺乳類の赤血球には,酸素を運ぶヘモグロビンが含まれているが,ほかの脊椎動物と違って効率よく酸素を運ぶために核がない。
白血球の仕事は,体の防衛と修復である。白血球は顆粒球,単球,リンパ球からなり,微生物を飲み込んで消化する(顆粒球),細胞内のごみと微生物を消化する(単球),抗体をつくり,細胞を感作して病気に対する免疫をつくる(リンパ球)働きをする。血小板は血液の凝固作用において重要な働きをする。破損した血管壁に接触すると,傷口に集まって凝血塊形成を誘導する化学物質を放出し,さらに血小板自体が凝血塊の網の一部をなして血栓を形成する。赤血球,顆粒球,単球,血小板は骨髄でつくられ,リンパ球はリンパ組織でつくられる。
無脊椎動物の血液は,脊椎動物の血液と比べると細胞が少ない。また,ごく小さな無脊椎動物では,血液で運ばれる酸素は直接血漿中に溶けているだけであるが,より大きく複雑な動物は呼吸色素をもつことで大量の酸素を運搬する。呼吸色素は,複数の酸素原子と可逆的に反応する金属原子を含んでいる。鉄を含む赤い色素のヘモグロビンはすべての脊椎動物と無脊椎動物の一部に,銅を含む青い色素のヘモシアニンはカニ(→短尾類)や軟体動物などの甲殻類に見られる。環形動物は,鉄を含む緑の色素クロロクルオリンをもつものと,鉄を含む赤い色素ヘムエリトリンをもつものに分かれる。高等動物では色素が細胞内(赤血球)に閉じ込められており,血液の粘性を低く抑えるのに役立っている。
血液の有形成分とその産生臓器がおかされた病的状態を,血液疾患という。赤血球数が病的に増加した状態を赤血球増加症(多血症),減少した状態を貧血と呼ぶ。本質的には貧血は病気ではなく,病気の症状である。そのため貧血はそれぞれの原因にしたがって治療されるべきである。白血球の数が通常よりかなり増加した状態を,白血球増加症という。たいていの場合,顆粒球の増加によるもので,なんらかの感染症が原因にある。リンパ球数の増加は,若者に多いウイルス性疾患の伝染性単核球症の特徴であり,発熱,喉の痛み,脾臓の肥大,インフルエンザ様の症状,リンパ腺の腫れを伴う。白血病は造血組織の深刻な疾患で,白血球が無制限かつ病的に増加し,最終的には脾臓やリンパ腺などの組織が変化し,貧血が起こり,血小板が減少する。治療しなければ数週間から数ヵ月で死亡する急性白血病から,10年以上ほとんど症状が出ない慢性白血病まで経過はさまざまである。白血病に関連して起こる疾患には,悪性リンパ腫がある。出血性疾患は,血管の内壁,血小板,血漿中の凝血因子に異常があると起こる。血小板減少症では,皮膚や消化器系と尿生殖路の粘膜から出血する。また凝固因子のどれか一つでも欠損すると,わずかな傷でも大量に出血する。この疾患は遺伝的な凝固因子欠損に起因するものが多く,例えば女性によって受け継がれるが男性にしか現れない血友病とクリスマス因子欠乏症,男性にも女性にも見られるフォン・ウィレブランド病などが該当する。後天的な原因としては,ビタミンKビタミンCの欠乏症がある。(→循環器系

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百科事典マイペディア 「血液」の意味・わかりやすい解説

血液【けつえき】

動物の体内を循環する体液をいい,普通,血管内を流れる。ヒトでは体重の1/11〜1/14を占め,比重1.05〜1.06,その約80%が水分。脊椎動物の場合,無形成分は血漿(けっしょう),有形成分(血球または血液細胞という)は赤血球白血球血小板。赤い色は赤血球中に含まれるヘモグロビンによる。心臓を中心に絶えず流動し(血液循環),体の各部に酸素や栄養を補給し,体の各部でできた老廃物を運び出す役割をもち,同時に体温の調節も行う。また,血液中には免疫物質もあり,白血球は体内の細菌や毒物を摂取して無害化する機能をもっている。体外で血液を放置すると,固形物(血餅(けっぺい))と液体(血清)とに分かれ,自然に固まる(血液凝固)。血球が損傷したり老朽して死滅すると,主として脾(ひ)臓で浄化される。普通,赤血球は120日前後,白血球と血小板は数日の寿命。血球の新生は造血器官で行われる。無脊椎動物の血液中には赤血球に相当するものは含まれず,透明なものが多いが,一部に呼吸色素のために色を帯びるものがある。色はヘモグロビンの赤のほか,クロロクルオリンの緑,ヘモシアニンの青,エリスロクルオリンの赤紫等がある。
→関連項目血液製剤成分献血造血幹細胞移植体液

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精選版 日本国語大辞典 「血液」の意味・読み・例文・類語

けつ‐えき【血液】

〘名〙 動物の血管内を循環する体液。脊椎動物ではヘモグロビンという色素を含み赤く見え、軟体動物、節足動物などの無脊椎動物では淡青色を呈する。組織に酸素、栄養物質、ホルモンなどを供給し、炭酸ガス、老廃物などの排出物を運び去る。また、免疫抗体を含み、体内にはいった病原菌を殺すなど病害から動物を保護する。脊椎動物では液状の血漿(けっしょう)と固形の血球からなる。
※全九集(1566頃)四「血液虚少にして秘せば必ず潤せ」
[語誌]すでに中世に例が見られるが、近世後期になって医学用語として使用され、幕末から一般化した。

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デジタル大辞泉 「血液」の意味・読み・例文・類語

けつ‐えき【血液】

動物の血管系内を循環している体液。有形成分の血球血小板と液体成分の血漿けっしょうからなる。体内各部への酸素や栄養の補給、二酸化炭素や老廃物の除去、抗体による防衛反応、体温の維持などの働きをする。
[類語]鮮血生き血人血冷血

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栄養・生化学辞典 「血液」の解説

血液

 血管内を循環する液状の組織.酸素や栄養素の運搬,生体防御など広い機能を有する.体重の約7%を占め,血球と血漿に分けられる.

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世界大百科事典 第2版 「血液」の意味・わかりやすい解説

けつえき【血液 blood】

動物の血管内を流れる体液のことで,血管外の細胞・組織間を流れる組織液や,リンパ管内を流れるリンパ液と区別される。
【動物の血液】
 開放性血管系を備える無脊椎動物の血液は組織液と同じ成分であるが,閉鎖性血管系を備えた動物では,その成分の一部は血管外へ流出せず血管内にとどまるため,組織液と異なった成分を示す。この区別も無脊椎動物では絶対的なものでなく,閉鎖性血管系をもつ動物の血液でも,組織液にきわめて類似した成分からなるものもある。

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普及版 字通 「血液」の読み・字形・画数・意味

【血液】けつえき

血。

字通「血」の項目を見る

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世界大百科事典内の血液の言及

【体液】より

…中国や日本など東洋の医学で,昔から気や風の変化から疾患を〈病む気〉,つまり〈病気〉として説明してきたのとはきわめて対照的で,こうした体液病理学による医学的思考は,ルネサンス以後に解剖学が進歩して器官の病理学(固体病理学)と入れかわるまで,ヨーロッパで支配的だった。 古代ギリシア・ローマでヒッポクラテスやガレノスらにより取り上げられるのは,粘液phlegm,血液blood,黒胆汁melancholy(black bile),胆汁(黄胆汁choler,yellow bile)という4種の体液であり,これらの平衡と調和を保つことが健康の条件で,ある体液に過剰,不足,移動などが起これば,心身の変調や病態が生じると考えられた。例えば,癲癇(てんかん)の発作は,冷たい粘液が突然脈管内に流れ込んで血液を冷却,停滞させる場合に起こるが,粘液流が多量で濃厚なときには,血液を凝結させるから,直ちに死を招く。…

【裁判】より

…これによると,初期王朝期末からアッカド時代では,苦情の申立てがあると慣例として役人maškimの世話により随時個々の地域においてその行政長官ensíや長老が司宰者となって衆人の下で裁きが行われたようである。この,いわば裁判集会の場所は定まっておらず,神殿域内,宮殿の門前等で行われ,裁判人は未分化で,行政官や地域住民とくに神官sangが多くその任に当たった。川におもむいて神裁を仰ぐ例もある。…

【体】より


[呼吸と循環]
 体のなかで栄養素の代謝によって発生したエネルギーが消費される場合,酸素の供給を必要とし,その作用の結果,炭酸ガスが生じる。これらガスの効果的な交換は,呼吸器とくに肺と血液,さらに血液を肺から体のすみずみにまで循環させる循環器によってなされている。呼吸器の主役は左右のと,そのなかへ空気を送り込む気道,すなわち鼻腔,喉頭,および気管,気管支である。…

【体液】より

…細胞外液ともいう。血液,リンパ液,細胞間液,体腔液などの区別がある。脊椎動物の循環系は閉鎖型であって,これらの区分がはっきりしており,血液は血管内を,リンパ液はリンパ管内を流れるが,開放循環系をもつ節足動物や軟体動物,そのほか一般に無脊椎動物では,血液とリンパ液と細胞間液ははっきり区別できず,体液は血リンパと呼ばれることがある。…

【血】より

…ここでは,世界各地,各時代の文化における血に関する観念やそれをめぐる習俗について記述する。 なお,血についての生理学的解説は〈血液〉の項を参照されたい。
【血の文化史】
 古代エジプトの〈死者の書〉には,生前よこしまだった死者の血をオシリスの前で飲みながら,罪の重さを調べる神々の話がある(《ヌウのパピルス》)。…

※「血液」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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ボソン

ボース統計に従う粒子。ボース粒子ともいう。スピンが整数の素粒子や複合粒子はボソンであり,光子,すべての中間子,および偶数個の核子からなる原子核などがその例である。またフォノンやプラズモンのような準粒子...

ボソンの用語解説を読む

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