歪時効(読み)ひずみじこう(その他表記)strain ageing

改訂新版 世界大百科事典 「歪時効」の意味・わかりやすい解説

歪時効 (ひずみじこう)
strain ageing

鋼を引張変形させていく場合,弾性限度を超えたところで塑性変形が始まり,その後,ある範囲でほぼ応力一定のもとで伸びを生じるものがある。この伸びを降伏点伸びと呼ぶが,一度弾性限度を超えた材料を除荷した後,ただちに再び変形を与えても降伏点は現れない。ところが,除荷して長時間室温に放置するか,やや高い温度に保持したのち荷重を加えると再び降伏点を生じる。これをひずみ時効という。ひずみ時効後は強度が増加し,延性が減少する。この現象はすべての金属材料にみられるものではなく,顕著な例としては軟鋼の場合,ひずみ時効の原因は炭素原子,窒素原子による転位の固着現象によると考えられている。除荷直後には塑性変形によって生じた転位が動きやすく,降伏点は現れないが,時効あるいは加熱すると不純物原子炭素や窒素原子が拡散し,転位が固着して降伏応力が増加し,降伏点が現れる。降伏点伸びが存在する材料では加工した場合に不均一変形を生じてしまい,所定の形状を正確につくり出すことができない。この対策としては,炭素・窒素原子などの量の制御および材料にあらかじめ小さいひずみを与えて不均一変形を除く方法がとられている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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