改訂新版 世界大百科事典 「気ちがい」の意味・わかりやすい解説
気ちがい (きちがい)
日本で近世以降ひろく使われてきた精神病,精神病者の俗称で,1603年(慶長8)刊行の《日葡辞書》にはすでにこの語(Qichigai)が収録されている。原義は,単に〈気が変になること〉ではなく,〈自分の気がほかの気と入れかわること〉であるとされる。ちなみに,中世では〈ものつき〉や〈ものぐるい〉が,そして古代では〈たぶれ〉が精神病一般を指す言葉として流布しており,したがって〈たぶれ〉→〈ものつき〉ないし〈ものぐるい〉→〈気ちがい〉といった系譜が日本人の狂気観を歴史的に伝えてきたことはまちがいない。このうち〈たぶれ〉が〈気が触れること〉,つまり,自分の気が生霊や死霊に触れて,それにとりつかれる状態と解するなら,上記の3種の俗称はすべて憑依(ひようい)(つきもの)の構造を中核にふくんでいることになり,当時公式に用いられた〈癲〉〈癇〉〈狂〉や〈乱心〉などの漢字表現よりも日本的狂気の実相をいっそう的確にあらわしている。
→気 →狂気
執筆者:宮本 忠雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報