日本大百科全書(ニッポニカ) 「海獣しゃち」の意味・わかりやすい解説
海獣しゃち
かいじゅうしゃち
Horcynus Orca
イタリアの作家S・ダッリーゴの代表的長編小説。1975年刊。言語表現の難解さと神話的構造のゆえに、しばしばJ・A・ジョイスの『ユリシーズ』に比肩される。初め10分の1ほどが『獣(けだもの)の日々』I giorni della feraと題され、E・ビットリーニの編集する『メナボ』第3号(1960)に、解読のための語彙(ごい)集をつけて掲載され、欧米の文学界で大きな反響をよんだ。1943年10月4日、イタリアのティレニア海沿岸を南下する主人公が、女たちの村へ向かう物語で、ファシズム政権崩壊と同時にイタリア半島南端、とりわけメッシーナ海峡を中心に、シチリア島周辺の海域で神話的世界が再現されるさまを描いている。
[河島英昭]