語彙(読み)ごい

精選版 日本国語大辞典 「語彙」の意味・読み・例文・類語

ご‐い ‥ヰ【語彙】

〘名〙 (「彙」は集まり、類集したものの意)
① 単語の集まり。一言語の有する単語の総体、ある人の有する単語の総体、ある作品に用いられた単語の総体、ある領域で、またはある観点から類集された単語の総体など。単語を集合として見たもの。
※国文学読本緒論(1890)〈芳賀矢一〉五「其語彙甚だ寡少にして」
② 一定の順序に単語を集録した書物。文部省編輯寮の「語彙」(明治四年)、上田万年・樋口慶千代の「近松語彙」など。
※国語のため(1895)〈上田万年〉今後の国語学「文部省が斯学名家を集めて大成せんと企てたる語彙」
③ (俗に) ある単語の集まりに属する単語。用語
※「遊蕩文学」の撲滅(1916)〈赤木桁平〉三「単に語彙句法の彫琢と、感傷咏嘆の濫費とによって捻出せられたものであるから」

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デジタル大辞泉 「語彙」の意味・読み・例文・類語

ご‐い〔‐ヰ〕【語彙】

《「彙」は集める意》
ある言語、ある地域・分野、ある人、ある作品など、それぞれで使われる単語の総体。「語彙の豊富な人」「学習基本語彙
ある範囲の単語を集録し、配列した書物。「近松語彙
[類語]ボキャブラリー

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「語彙」の意味・わかりやすい解説

語彙
ごい

一定の範囲に用いられる単語の集合を「語彙」という。一定の範囲とは、言語の種類、地域、階層、専門領域、作品、個人など、なんでもある範囲が考えられればよいのであって、語彙は、そこに含まれる単語の総体をさすことばである。したがって、「英語の語彙」「八丈島方言の語彙」「物理学の語彙」「『源氏物語』の語彙」「漱石(そうせき)の語彙」などというように使う。個々の単語をさす場合には「単語・語・語詞」という。したがって、「西鶴(さいかく)の〈浮世〉という語彙」「〈哲学〉という語彙」というような使い方は誤りである。なお、特定の個人の語彙を考える場合には、「使用語彙」と「理解語彙」とに分ける必要がある。前者は、その人が話したり書いたりすることのできる語彙であり、後者は、聞いたり読んだりして理解することのできる語彙である。使用できれば理解できるが、理解できても使用できるとは限らないから、一般に、前者は後者に含まれ、その一部をなすことになる。

[山口佳紀]

語彙の体系

単語は単独で存在するものでなく、つねに他の単語との相対的な関係において存在するものである。たとえば、兄弟関係について、日本語では、男か女か、年上年下かに着目して、「あに・おとうと・あね・いもうと」を区別するが、英語ではbrother, sisterのように、男女の区別のみであり、年上・年下を区別するには、elderとかyoungerとか、別の単語で限定しなければならない。したがって、兄弟関係に限ると、英語のbrotherはsisterとだけ対立しているが、日本語の「あに」は「あね」「おとうと」「いもうと」との対立のなかに存在する。結局、ある単語は単独に把握されるべきものでなく、それぞれの言語の体系のなかでいかなる位置を占めているかが重要なのである。以上は集団のレベルのことで、個々の人間を超えて共通性を有する問題であるが、個人のレベルでも、個々の人間は微妙に違っているはずであって、たとえば紫式部清少納言とは、同じ時代、同じ階層に属するが、まったく同じ語彙体系をもっていたとはいえないであろう。結局、語彙の体系は、それぞれの語彙ごとに観察される必要があることになる。

[山口佳紀]

日本語の語彙の特色

日本語には同音語が多い。これは、おもに漢語(過去の中国語に由来する語)に原因がある。たとえば、「生計・整形・政経・正系」は、すべてセイケイという同音の漢語である。中国語の原音では違っていた音も、日本語化したために同音に帰したものが多く、同音語をいっそう増やした。たとえば、「計」は[kei]、「経」は[keŋ]であったが、日本語では両方ともケイになるというぐあいであった。次に、日本語には類義語が多い。外来でなく日本語内部で発生した単語を「和語(あるいは大和(やまと)ことば)」というが、この和語のほかに、中国との交渉によって漢語が流入し、のちに西欧語を中心に外来語が入り込んだ。したがって、ほぼ同じような意味を表すのに、和語、漢語、外来語が併立することになりやすい。たとえば、「かけごと」は和語、「賭博(とばく)」は漢語、「ギャンブル」は外来語である。

 また、日本語の語彙を意味分野によって分けてみると、「春雨(はるさめ)」「時雨(しぐれ)」など天候語彙は豊富であるが、星の名など天体語彙は貧弱であるなどの偏りがみいだせる。これは、語彙の様相が人間の生活・文化の性格をうかがわせるという一例である。

[山口佳紀]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「語彙」の意味・わかりやすい解説

語彙
ごい
vocabulary

ある一つの国語,方言あるいは作品などの単語の総体。現代英語の語彙,東京方言の語彙,『源氏物語』の語彙,などのようにいう。各個人のもつ語彙はそれぞれ異なり,ある言語の語彙はそれを話す人の語彙の総和といえる。しかし,そのうちでも,だれもが頻繁に用いる単語と,ごく少数の者しか用いない単語がある。前者は,日常生活に関係のあるものが多く,基本語彙とか基礎語彙などと呼ばれる。語彙はさまざまの基準から分類される。たとえば,品詞などの文法機能,語構成,意味,単語の素性 (和語,漢語,その他の外来語など) ,位相 (学生語,女房詞など) ,用いられるレベル (俗語,卑語,雅語など) などが考えられる。このように,語彙は非常に複雑な体系をなすので,音韻や文法のような単純な体系化は困難である。しかし,親族名称や色の名のように,意味のうえで体系をもつ部分もあるので,このような体系化を語彙の他の部分にも行おうとする研究が,意味論でなされつつある。なお,個人においては,聞いたり読んだりして理解できる単語が,実際に話したり書いたりするときに用いる単語より多く,前者を理解語彙,後者を発表語彙という。

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百科事典マイペディア 「語彙」の意味・わかりやすい解説

語彙【ごい】

一定の範囲(すなわち一個人あるいは一つの言語集団)の言語に表れる単語の総称。これを体系的に記述研究する言語学の分野を語彙論という。語彙のうち,一般の正常な社会生活に必要と思われる基本的なものを基本語彙といい,その数は1500〜3000語とされる。さらに,一定の体系のもとに具体的な語彙を選び出したものは基礎語彙と呼ばれ,たとえば,I.A.リチャーズとオグデンによるBasic Englishは850語である。
→関連項目比較言語学

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普及版 字通 「語彙」の読み・字形・画数・意味

【語彙】ごい

単語。

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世界大百科事典(旧版)内の語彙の言及

【分類】より

…中国では学問の分類も図書の分類によったので,経,史,子,集の〈四部〉や集,六芸,諸子,詩賦,兵書,術数,方技の〈七略〉が用いられた。 語彙の分類としては,すでに古代エジプトやメソポタミアに分類語彙集があり,ローマ時代にもポルクスJulius Polluxがギリシア語の《名前の書(オノマスティコン)》を書いている。これは後2世紀であるが,同じころに中国では許慎が9353字を540部に分類した《説文解字(せつもんかいじ)》を完成した。…

※「語彙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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