改訂新版 世界大百科事典 「灯明皿」の意味・わかりやすい解説
灯明皿 (とうみょうざら)
油に灯心を浸して点火し,明りとするための器。人類は火を使用することによって,暖と明りを得たが,ある段階から土器を使用して明りだけを得ることができるようになった。日本では縄文時代中期の釣手土器を最古の明りとりの土器とする説があるが,確実な例が現れるのは飛鳥・奈良時代に杯・皿形の土師器を用いるようになってからである。当時の宮都から出土する土師器杯には,灯心の痕跡を残すものがあり,油を満たした杯に灯心を浸して,灯火器として用いたことがわかる。このような例は平安時代以後,室町時代にかけて西日本を中心として多数発見されるようになり,当時の多くの階層の人々が用いていたことが想像される。江戸時代になると次第に京焼をはじめとする陶器製の製品が主流を占めるようになり,江戸後期以後,土器(かわらけ)の灯明皿は,神棚に灯明をあげるような限られた場合にだけ,用いられるようになった。
執筆者:宇野 隆夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報