改訂新版 世界大百科事典 「獅子座三十二話」の意味・わかりやすい解説
獅子座三十二話 (ししざさんじゅうにわ)
《パンチャタントラ》《屍鬼二十五話》と並ぶ,インドの代表的な説話集。原題は《シンハーサナ・ドバートリンシカーSiṃhāsanadvātriṃśikā》。《ビクラマ・チャリタVikramcarita(ビクラマ王の行動)》とも呼ばれている。名君ビクラマ・アーディティヤ王は,インドラ神(帝釈天)から32個の女人像で飾られた玉座(獅子座)を授けられる。王が戦死した後,ダーラーのボージャ王は玉座を発見し,その上に座ろうとすると,女人像の一つが,〈ビクラマ王と同様の勇気をそなえていないならば,玉座に座ってはならぬ〉と告げ,ビクラマ王の勇気ある行動を物語る。こうして,32の女人像は次々と物語をする。《屍鬼二十五話》と比較すると,物語は単調であり,教訓的であるが,広く愛読された説話集で,種々の伝本が残存している。本書の成立年代は定かではないが,ダーラーのボージャ王が登場することから,11世紀以前ではありえず,おそらく13世紀ごろに成立したと推定される。ペルシア語にも翻訳され,インドの内外に伝わった。
執筆者:上村 勝彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報