パンチャタントラ(読み)ぱんちゃたんとら(英語表記)Pañcatantra

日本大百科全書(ニッポニカ) 「パンチャタントラ」の意味・わかりやすい解説

パンチャタントラ
ぱんちゃたんとら
Pañcatantra

古代インドのサンスクリット説話集。原本散逸、作者も年代も不明であるが、6世紀ごろには中世ペルシア語のパフラビー語に翻訳されたという。これも伝わらず、さらにシリア語に訳された(570ころ)ものは、原本に登場する二匹の豺(さい)、カラタカとダマナカの名をとり『カリーラとディムナ』とよばれ、ペルシア語、アラビア語、ギリシア語など西方諸国語の訳本はみなこの題名でよばれる。本書はアマラシャクティ王の命により、賢いバラモンのビシュヌシャルマンが3人の王子に王者としての教育を施すため、寓話(ぐうわ)に託して処世、統治、外交、倫理の要訣(ようけつ)を教えるというのが枠になっており、「朋友(ほうゆう)の分離」「朋友の獲得」「鴉(からす)と梟(ふくろう)の争闘」「獲得したものの喪失」「思慮なき行為」の五編からなり、各編はさらに多数の挿話を含み、散文に格言的詩句を交えている。サンスクリットだけでも数種の異本が伝わり、そのうちカシミールに伝わった『タントラーキヤーイカ』は、諸伝本のうちもっとも古い形を伝えるものといわれる。ベンガル地方に伝わった1本は『ヒトーパデーシャ』とよばれて大いに普及した。『パンチャタントラ』は東西五十数か国語に訳され、なかにはグリム童話ラ・フォンテーヌの寓話に素材を提供している話も多い。またチベット蒙古(もうこ)にも伝えられ、「猿の生き肝」(くらげ骨なし)や「二羽の白鳥と亀(かめ)」(雁(がん)と亀)のように、日本に伝わっている話もあるが、同じ話は仏教説話のなかにもみいだされるから、おそらく漢訳の仏典を通じて伝わったものと思われる。その内容、形式は東西諸国の説話文学に多大の影響を与え、世界文学史上重要な地位を占める。

[田中於莵弥]

『田中於莵弥・上村勝彦訳『アジアの民話12 パンチャタントラ』(1980・大日本絵画)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パンチャタントラ」の意味・わかりやすい解説

パンチャタントラ
Pañcatantra

古代インドのサンスクリット説話集。題名は「5巻の物語」の意。原本は散逸して現存せず,作者,成立年ともに不詳。 550年頃一伝本が中世ペルシア語のパフラビー語に翻訳されたという。『朋友の分離』『朋友の獲得』『鴉 (からす) と梟 (ふくろう) の争闘』『獲得したものの喪失』『思慮なき行為』の5巻から成る。カシミールに伝わる『タントラーキヤーイカ』 Tantrākhyāyikaはその最も古い形を伝えるものといわれ,『ヒトーパデーシャ』もベンガルに伝わる一本である。世界各地に広く伝播して,その内容,形式は東西の説話文学に多大の影響を与えている。

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