古代インド神話における代表的な神であるインドラが仏教にとり入れられたもの。サンスクリットでŚakra-Devānam Indraといい,釈迦提婆因陀羅,釈迦提婆,釈迦因陀羅,釈提桓因などと表し,諸天中の天帝という意味で天帝釈,天主帝釈,天帝などという。釈迦が釈迦族の王子ゴータマ・シッダールタとして生まれる以前の数多くの一生においても,たびたびその修行を守り,釈迦が仏陀となって後は説法の場に登場するなど釈迦との関係が深く,梵天とともに仏法守護の善神とされている。密教においては十二天の中の東方を守る一尊とされた。両界曼荼羅においては,胎蔵界に2ヵ所,金剛界に1ヵ所,それぞれ姿の異なる像が表現されている。形像は,宝冠をかぶり右手に独鈷(どつこ)を持つ像が一般的であるが,十二天の中の像は,白象の背に座る姿として表される。日本へは早い時期に伝わり,東大寺法華堂,法隆寺食堂,唐招提寺金堂などに奈良時代の彫像が現存するほか,密教寺院では教王護国寺(東寺)講堂に象に乗る彫像が伝えられている。なお,法隆寺蔵《玉虫厨子》(飛鳥時代)の側面に描かれる本生図のうち,〈施身聞偈(せしんもんげ)図〉の中に登場する菩薩形の帝釈天が,日本に現存する最古の作例と考えられる。
→インドラ
執筆者:関口 正之 須弥山(しゆみせん)の頂上の忉利天(とうりてん)に在って,部下の四天王を中腹の東西南北に配置し,善悪邪正をただして仏法を守護する神として信仰を集める帝釈天は,耆婆(ぎば)菩薩や竜樹菩薩と同じく古代東洋医術書に医師としても名を残している。《医心方》風病篇には帝釈の〈一切風病治療方〉があり,その処方中にはインド産のカリロクの実や,東南アジア原産の檳榔子(びんろうじ)も薬剤として配合されている。当時は病気の風邪と気候の風が混同され,風病の治療薬を船の舳に塗れば風波にあわないと信じられた時代なので,風病の治療薬を発明したとされる帝釈天は邪神の攻撃から仏法を守る力を持つとして信仰を集めたことが考えられる。
執筆者:槙 佐知子
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梵天(ぼんてん)と並び称される仏法の守護神の一つ。もとはバラモン教の神で、インド最古の聖典『リグ・ベーダ』のなかでは、雷霆神(らいていしん)であり武神である。ベーダ神話に著名なインドラIndraが原名で、阿修羅(あしゅら)との戦いに勇名を馳(は)せる。仏教においては須弥山(しゅみせん)の頂上にある忉利天(とうりてん)の善見城(ぜんけんじょう)に住して、四天王を統率し、人間界をも監視する。初期の仏典にその名がみられ、ことに『大乗涅槃経(だいじょうねはんぎょう)』「聖行品(しょうぎょうぼん)」にある雪山童子(せっさんどうじ)の説話は有名で、帝釈天が羅刹(らせつ)(鬼)に身を変じて童子の修行を試し励ます役割を演じている。密教では護世八方天(ごせはっぽうてん)および十二天の一として東方を守る。彫刻では京都東寺(教王護国寺)講堂の白象に乗る半跏像(はんかぞう)、奈良唐招提寺(とうしょうだいじ)金堂の立像が著名。なお、東京都葛飾(かつしか)区の柴又(しばまた)帝釈天は、庶民信仰の寺として有名である。
[望月良晃]
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【《リグ・ベーダ》の神話】
前1500年から前900年ごろに作られた,最古のベーダ文献である《リグ・ベーダ本集》には,一貫した筋の神話は見いだされないが,事実上の作者である聖仙(リシ,カビ)たちは,当時のインド・アーリヤ人が持っていたなんらかの神話を前提として詩作したと思われる。特に,《リグ・ベーダ》において最高神的地位にあるインドラ(帝釈天)を中心とする神話の存在がうかがわれ,実に全賛歌の約4分の1が彼に捧げられている。インドラは元来,雷霆(らいてい)神の性格が顕著で,ギリシアのゼウスや北欧のトールに比較されるが,《リグ・ベーダ》においては,暴風神マルトMarut神群を従えてアーリヤ人の敵を征服する,理想的なアーリヤ戦士として描かれている。…
…彼は名目上は依然として神々の王とみなされるが,相対的に弱い神となり,世界守護神(ローカパーラ)の一つとして東方を守護するとみなされるようになった。仏教にも取り入れられ,仏法の守護神とされ,帝釈天と漢訳された。インド神話【上村 勝彦】。…
…12の天部は四方(東西南北)と四維(南東,南西,北西,北東)の8方と上方,下方の10方位に配置される十尊と日天(につてん),月天(がつてん)である。すなわち,帝釈天(たいしやくてん)(東),火天(かてん)(南東),閻魔天(えんまてん)(南),羅刹天(らせつてん)(南西),水天(すいてん)(西,バルナ),風天(ふうてん)(北西),毘沙門天(びしやもんてん)(北),伊舎那天(いしやなてん)(北東),梵天(ぼんてん)(上),地天(ちてん)(下),日天,月天となる。十二天像は画像で表現される。…
※「帝釈天」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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