甲状腺中毒症の特殊な病態

内科学 第10版 の解説

甲状腺中毒症の特殊な病態(甲状腺機能亢進症)

(3)甲状腺中毒症の特殊な病態
a.甲状腺クリーゼ(thyroid storm, thyrotoxic crisis)
 突然発症する甲状腺中毒症の劇症型で,生命の危機にさらされた状態である.現在はまれになったが,発症するといまでも致死率が高い.未治療ないしコントロール不良の重症Basedow病患者が,甲状腺切除術を受けたり,重症感染症,他臓器の手術,外傷分娩など,強いストレスにさらされたとき発症する.不穏,譫妄,精神異常,傾眠,痙攣,昏睡といった中枢神経症状に加え,40℃にも達する高熱,著しい頻脈,おびただしい発汗,悪心・嘔吐,下痢などの消化器症状をきたし,循環不全からショック状態におちいる.甲状腺ホルモンレベルをできるだけ速く低下させるために大量の抗甲状腺薬を使用するが,効果が現れるまでに時間がかかる.脱水是正,解熱処置とともに,大量のヨウ素,β受容体遮断薬,副腎皮質ホルモンを使用する.血漿交換を行う場合もある.
b.T3中毒症(T3 toxicosis)/T3優位型Basedow病
 T3中毒症はT4に比べT3が著しく過剰に産生されている.Basedow病のほか,中毒性多結節性甲状腺腫,Plummer病でもみられる.血中T3が上昇し,T4は正常域にある.甲状腺中毒症としての臨床症状は通常のBasedow病と同じで,治療法も変わらない.
 T3優位型Basedow病は,治療経過中に血中T4は正常化してもT3がなかなか正常化しないタイプのもので,TRAb抗体価が高く,甲状腺腫大も大きく,抗甲状腺薬治療に抵抗性であることが多い.
c.妊娠と甲状腺中毒症
 妊娠中はTBGが増加するため,総T3,T4高値となる.このため甲状腺機能の評価は遊離型ホルモンで行う.Basedow病に対しては,抗甲状腺薬で甲状腺機能を正常に保つように努める.甲状腺切除術を選択する場合は妊娠第2三半期(second trimester)に行う.アイソトープを用いる検査や治療は絶対禁忌である.[中村浩淑]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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