禁忌(読み)キンキ

デジタル大辞泉 「禁忌」の意味・読み・例文・類語

きん‐き【禁忌】

[名](スル)
み嫌って、慣習的に禁止したり避けたりすること。また、そのもの。タブー。「禁忌を破る」
人体に悪影響を及ぼす危険がある薬剤の配合や治療法を避けて行わないようにすること。
[類語]禁止禁制禁断禁令禁遏きんあつ禁圧厳禁無用法度はっと差し止め駄目だめ(―する)禁ずる取り締まる制する

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共同通信ニュース用語解説 「禁忌」の解説

禁忌

重大な副作用リスクがある場合などに、その薬を投与してはならないケースとして製薬会社添付文書に記載している。例えば催奇形性がある薬の妊婦への投与などが該当し、飲み合わせが悪い他の薬との併用を避けるための「併用禁忌」もある。法的な禁止ではなく、医師の裁量で投与しても医師法や薬事法上の問題は生じない。副作用報告の積み重ねに基づき、厚生労働省が禁忌として添付文書に記載するよう製薬会社に指示することもある。

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精選版 日本国語大辞典 「禁忌」の意味・読み・例文・類語

きん‐き【禁忌】

  1. 〘 名詞 〙
  2. さわりのあるものとして忌みはばかられる物事への接近・接触を禁ずること。病気・出産・死などの状態に関するもの、食べ物、方角、日時に関するものなどさまざまな形のものがあり、一般に、違反者は超自然的な制裁を蒙るものとされる。さわり。タブー。
    1. [初出の実例]「去年二月神主等破禁忌之旨、背起請之跡、越渡禁河」(出典:狩野亨吉氏蒐集文書‐長暦四年(1040)六月三日・官宣旨案)
    2. 「戦場に向はんに頸落の滝とは禁忌(キンキ)なり」(出典:浄瑠璃・平仮名盛衰記(1739)一)
  3. ある薬剤ないしは治療を試みる場合、病気を悪化させるなど、人体に何らかの悪影響を与えるとしてそれらの方法は用いるべきでないということ。薬物学、外科、レントゲン、精神療法上に用いられる。
    1. [初出の実例]「医師は老病にて薬力及び難し。此上は食物の禁忌も無用也」(出典:小学読本(1874)〈榊原・那珂・稲垣〉四)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「禁忌」の意味・わかりやすい解説

禁忌(俗信上の禁止事項)
きんき

俗信上の禁止事項。ポリネシア語のタブー(taboo, tabu)にきわめて近い内容をもつ。別に信仰上の禁止事項を物忌(ものい)みといい、両者をあわせて忌みという。日本語の場合、忌みと物忌みとの区別が明確でなく、禁忌とさえも混同して使われることがあるが、物忌みは宗教的な戒律であり、禁忌は本来、生活の知恵というべきものである。

 柳田国男(やなぎたくにお)は、各地に伝承されている禁忌関係資料を、土地の忌み、物の忌み、忌まれる行為、忌まれる日時、忌まれる方角、忌みことば(忌詞)の六つに分類した。土地の忌みには、そこを耕すとなにかよくないことがあるとか病気になるとかいうケチ田、病(やまい)田、そこで転ぶと3年のうちに死ぬという三年坂などがあり、物の忌みには、触るとおこり(マラリア)になるというおこり石、知らずに小石を投げつけると鼻血が出るという鼻血石などがある。忌まれる行為には、葬式を連想するために忌まれるものが多い。ご飯のおかわりをせず1杯だけ食べるのを忌むのは、枕飯(まくらめし)を連想するためであり、水に湯を入れるのを逆さ水といって忌むのは、死体の湯灌(ゆかん)のときの作法だからである。そのほか正月に餅(もち)を食べない家例(かれい)とか、庭にビワを植えない、ブドウを植えないなどの禁忌がある。忌まれる日時や方角に関しては、陰陽家(おんみょうか)の広めたものが多い。友引の日は友を引くからといって葬式を忌み、仏滅は先祖をたいせつにしないといって婚礼を避けたりするのは、日本風の曲解に基づく。家を建てるときや旅立ちや転居にあたって、方角を気にする人はいまも多い。忌みことばには、狩人(かりゅうど)、山仕事をする人、鉱山で働く人たちが、山で使っていけないとされている山ことば、漁師などが沖で使わない沖ことば、夜は使わない夜ことば、正月に使わない正月ことばなどがある。使わないのでは不便なので、言い換えのことばがある。猿のことを山の人、鰯(いわし)をコマモノ、塩を浪(なみ)の花、鼠(ねずみ)を上の姉様(あねさま)などといったりする。

 以上は形式的な分類であるが、禁忌の本質を見極めるためには、より進んだ分類が必要である。食べてすぐ横になると牛になる、というような直接連想によるもの、シュロの木は鐘つき棒にするものだから庭に植えない、のように寺から葬式を連想する間接連想によるもの、尾根先に家を建てるなというような経験知識によるものがある。八月十五夜と九月十三夜の片方だけ祭るのを片見月といって忌むなどは、完結性がないとか対照的でないとか、心理的な要因によるものである。

[井之口章次]


禁忌(医学、薬学)
きんき
contraindication

医学および薬学でいう禁忌とは、適応させてはいけないという意味であり、反適応とか禁忌症ともよばれる。医薬品の適応上、症状を悪化させるとか、重篤な副作用が現れる場合に用いられる。たとえば、アトロピンなどの副交感神経遮断作用を利用した鎮けい剤は、緑内障前立腺(せん)肥大による排尿障害のある患者には禁忌であり、アスピリンはアスピリン・サリチル酸製剤過敏症の既往歴をもつ者、消化性潰瘍(かいよう)やアスピリン喘息(ぜんそく)の患者には禁忌といった例がある。このほか、温泉療法の禁忌症などのように、診断、予防、治療のために行ういっさいの医療行為のうち、人体になんらかの悪影響を与えるものをさすこともある。なお、薬剤の組合せのうち、配合したときになんらかの変化を生じ、そのままでは患者に適応できない場合、配合禁忌とよんでいる。

[幸保文治]

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百科事典マイペディア 「禁忌」の意味・わかりやすい解説

禁忌(民俗)【きんき】

タブーの訳語で神聖または不浄との接触を禁止することをいうが,広義には日本固有の忌(斎)(いみ)の観念をも含む。忌は神聖を畏敬(いけい)する心に発し,一方では出産や死の不浄に接触することを消極的に忌避するとともに,一方では祭の物忌(ものいみ),精進のように積極的に神聖清浄を保つ行為を意味し,やがて不浄には忌,祭事には斎の字を使い分けるようになった。禁忌の方法は酒断ち,茶断ち,塩断ち,青物断ち,火物断ちなど食物や火を禁じることが多く,逆に逆屏風(さかさびょうぶ),一本箸(ばし)など葬式の作法を日常に行うことを忌む。ほかに漁業・狩猟などの職業の者が仕事中に禁戒する忌言葉(いみことば),陰陽道の影響を受けた特定の日の禁忌(忌日(いみび))や方角の禁忌(恵方),特定の土地の忌避(癖地)などがあり,これらの禁忌を破れば(たたり)があると信じられた。
→関連項目浦島太郎穢れ斎戒俗信民間信仰

禁忌(医学)【きんき】

ある医療行為が特定の疾病には不適応で,悪影響を及ぼすために禁止されること。外科手術の禁忌,放射線治療の禁忌,温泉療法の禁忌というように用いられる。医薬品調合の禁忌は配合禁忌という。
→関連項目H2ブロッカー

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普及版 字通 「禁忌」の読み・字形・画数・意味

【禁忌】きんき

習慣上避けるべきこと。〔漢書、芸文志〕陰陽家は~則ち禁忌に牽かれ、小數に泥(なづ)み、人事を舍(す)てて鬼に任す。

字通「禁」の項目を見る

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改訂新版 世界大百科事典 「禁忌」の意味・わかりやすい解説

禁忌 (きんき)

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デジタル大辞泉プラス 「禁忌」の解説

禁忌

ドイツの作家フェルディナント・フォン・シーラッハの小説(2013)。原題《Tabu》。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「禁忌」の意味・わかりやすい解説

禁忌
きんき

「タブー」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内の禁忌の言及

【忌∥斎】より

…《古事記》《日本書紀》その他の古典で,典型的には〈斎〉と〈忌〉とに表記上使い分けられる。現代では禁忌ないしタブーに比定されるが,古典的には異常な神聖に対する消極的な忌避の態度や習俗ばかりでなく,積極的な交渉や謹慎のそれをも含む。原始古代の神聖観念には,崇高,清浄,偉大,強力など畏敬すべき神聖のほかに危険,邪悪,汚穢(おわい)など忌避すべき不浄な神聖も含まれており,基本的には異常な神秘として日常から隔離され俗的扱いを禁止される意味をもつ。…

【タブー】より

…その後,ポリネシアでタブーと呼ばれているものと類似の慣習が世界中に広く見られることが明らかとなり,タブーという語は今日では,欧米や日本でも日常語として用いられるに至っている。日本語ではふつう禁忌と訳され,日本語古来の(いみ),物忌(ものいみ)という言葉も類似の意味をもっている。 ポリネシア語においては,taは〈徴(しるし)づける〉,bu(もしくはpu)は〈強く〉を意味すると言われている。…

※「禁忌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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