内科学 第10版 の解説
痙性斜頸、頸部ジストニア、攣縮性斜頸(錐体外路系の変性疾患)
頸部の局所性ジストニアでは,持続の長い異常筋収縮(tonic spasm)を示すもの,あるいは短い収縮の繰り返し(clonic spasm)を部分的に生じるものとがある.30~40歳代で発症する例が最も多い.海外では女性に多いとされるが,日本では男性の方が多い.頸部筋の常同的な異常収縮により,頭位の偏倚をきたし,正常頭位の維持が困難である例が多く,頭部の随意運動や頭位に異常をきたす.頭部の振戦や速い動きを伴うこともある.偏倚は明らかでないが,頭部の随意運動障害を示す場合,頭頸部の痛みのみを主体とする場合もある.頭頸部の一部(頬や後頭部など)を触れることで症状が軽快する現象が多くの例でみられる(感覚トリック).実際に触れなくても,触れることを想像するだけで症状が軽快する例もある.また,起床直後症状が軽快または消失している現象がしばしばみられ,これを早朝効果(morning benefit)という.通常は頸部筋に緊張亢進を認めるが,視診・触診上明らかでない場合もある.臨床検査所見特異的な異常はない.
鑑別診断で最も注意が必要な病態は筋性斜頸で,出生時または乳児期早期に胸鎖乳突筋に器質的変化(血腫など)を生じ,同筋の硬結・短縮により斜頸位をきたす病態である.陳旧例では胸鎖乳突筋の綱状硬結がみられる.同筋の不随意収縮は認めない.
痙性斜頸の治療はボツリヌス毒素注射が第一選択である.注射を施行する際には,症例の痙性斜頸がどの筋の異常収縮によるかを見極め,適切な部位に,適切な用量を注射する必要がある.このほか,選択的末梢神経遮断術,定位脳手術などが試みられる.muscle afferent block療法(MAB療法)も有効である.内服薬は種々試みられているが,有効率はおおむね低い.[長谷川一子]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報