日本大百科全書(ニッポニカ) 「目無し経」の意味・わかりやすい解説
目無し経
めなしぎょう
平安後期の装飾経。絵巻の墨一色だけの線がきの画稿(白描画)を継ぎ合わせ、写経の料紙に転用したもの。画中の大半の人物の目鼻を省略してあることから、この名でよばれる。現在、『金光明経(こんこうみょうきょう)』巻第三(京都国立博物館)が完存するほか、巻第二、第四が零本(れいほん)・断簡として諸家に分蔵される。さらに『般若理趣(はんにゃりしゅ)経』一巻(大東急記念文庫)が伝存しており、もと『金光明経』四巻とあわせて五巻一セットとして調巻されたものと考えられる。『金光明経』巻第三と『般若理趣経』には奥書が加えられており、それによって後白河(ごしらかわ)法皇(1127―92)を中心に絵巻の制作が進行していたが、法皇の崩御により、その菩提(ぼだい)を弔うため絵巻の料紙を転用して写経供養をしたものであることがわかる。もとになった絵巻は『源氏物語』『狭衣(さごろも)物語』『隠れ蓑(みの)の物語』などが想定されている。
[島谷弘幸]