内科学 第10版 「移植後呼吸器合併症」の解説
移植後呼吸器合併症(移植後合併症の予防と治療)
移植後早期の肺障害は,好中球減少,免疫抑制薬の投与などの影響により細菌,真菌やウイルスによる感染症が多数を占める.一方,非感染性肺障害の診断は難しく,感染症の除外と組織診が確実な方法であるが,患者状態から困難な場合も多く,画像所見と感染症の除外により診断されることが多い.このなかで特発性肺炎症候群(idiopathic pneumonia syndrome:IPS),びまん性肺胞出血(diffuse alveolar hemorrhage:DAH)などは比較的移植後早期にも発症する.IPSは,病原微生物が同定できない不均一な肺障害の症候群である.臨床症状としては,発熱,呼吸困難,乾性咳,低酸素血症,画像検査で間質影や浸潤影を認める.減弱強度の前処置に比べて標準強度の前処置を用いた移植で頻度が多く,発症頻度は10%程度である.危険因子として,高齢患者,高線量TBIや大量BCNUを前処置に使用,GVHD予防にメトトレキサート(methotrexate:MTX)を使用,重症急性GVHDの発症,などがある.TBIを用いる場合は分割照射や肺の遮蔽によって肺毒性の軽減をはかることがIPS発症頻度の減少につながる.治療としてはステロイドが投与されるが,一般に反応は悪く予後不良である.病因にTNF-αの関与が示唆されており抗TNF作動薬を用いた臨床試験も行われている.DAHは自家移植で頻度が多く,胸部放射線照射歴も危険因子である.進行性の呼吸困難,低酸素血症,画像検査で浸潤影を認める.血痰はまれだが,気管支肺胞洗浄液は血性である.治療としてはステロイドの投与が試みられ,活性型第Ⅶ因子製剤が有効であったとの報告例もあるが,全体的には予後不良である.
移植後晩期に起こる肺障害としてはIPSとDAHに加え,閉塞性細気管支炎(bronchiolitis obliterans:BO),器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎(bronchiolitis obliterans with organizing pneumonia:BOOP)などがある.BOは組織診により確診に至るが,臨床的には,呼吸機能検査で閉塞性パターン[FEV1.0(1秒率)<75%,あるいはFEV1/FVC(努力性肺活量)<70%]を示し,高解像度CTによるair trappingあるいはsmall airwayの肥厚などの所見により診断に至ることが多い.BOOPでは,胸部X線あるいはCT所見で多発性の斑状陰影などの器質化肺炎像を認める.これらは慢性GVHDの肺障害として発症することが多く,ステロイド抵抗性を示すことも多い.ほかの臓器のGVHDに比べ治療反応性および予後は不良である.[高橋 聡]
■文献
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出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報