日本大百科全書(ニッポニカ) 「緊急流動性支援」の意味・わかりやすい解説
緊急流動性支援
きんきゅうりゅうどうせいしえん
emergency liquidity assistance
ヨーロッパ単一通貨ユーロを導入した国々(ユーロ圏)の各中央銀行が資金繰りの危うくなった民間銀行に対して行う緊急融資。略称ELA。ユーロ圏の金融システムを維持するための「最後の貸し手」としての機能をもつ。
通常、民間金融機関への資金供給はヨーロッパ中央銀行(ECB)による定例の資金供給オペレーション(短期オペ、長期オペ)によってなされる。しかし経営不安などが原因で、格付けなどが投資不適格級に下がり、同オペへの参加条件を満たせなくなった民間銀行が資金不足に陥る危険があった場合には、緊急流動性支援が適用される。定例の資金供給オペはECBが実施するのに対し、緊急流動性支援はユーロ圏の国々の各中央銀行が直接実施するという違いがある。また定例の資金供給オペに比べ、緊急流動性支援には高めの金利が適用される。緊急流動性支援適用の可否や支援上限額などについては、2週間ごとにECB理事会が決定する。ECBは対象銀行が健全性に欠け、緊急流動性支援が単なる対象銀行の延命につながるだけであると判断した場合には、支援の中止を命令できる。2009年にヨーロッパ債務危機が顕在化して以降、緊急流動性支援は金融危機に陥ったキプロスの銀行に適用されたほか、2015年12月時点で、預金流出が相次ぐギリシア国内の銀行に実施されている。
[矢野 武 2016年4月18日]