中世ヨーロッパで広く愛好された,キリスト教聖者の事跡,生涯を記録した物語。その源は『使徒行伝』,殉教記録,各福音書などであったが,時代を下るとともにさまざまな要素が混入し,次第に物語性を帯びるようになった。特に中世後期には,一般民衆の宗教・道徳教育の有力な手段として用いられ,多くの新作,改作が現れた。中世を通じて最も広く流布したものに,13世紀末ヤコブス・デ・ウォラギネによる『黄金伝説』 Legenda aureaがある。フランスにおいては,ラテン語のものが S.セベール (5世紀) ,フォルチュナ (6世紀) によって書かれ,やがてフランス語訳が試みられた。現存最古のフランス語聖者伝には,『聖レジェ伝』 La vie de Saint Léger (10世紀後半) ,『聖アレクシ伝』 La vie de Saint Alexis (1040頃) などがある。なお,史実に忠実な聖者研究は hagiologyと呼ばれ,ボランディストによる『聖者行伝』 Acta Sanctorumが出されている。