新約聖書の一書。四福音書に次いで収録され,著者は《ルカによる福音書》と同一人物。ただし,本書においてその〈行録〉が叙述の対象となる人物は,前半で主としてペテロ,後半でパウロである。著者は〈第一書〉に当たる福音書でイエスの行録を記したのち,本書において,復活して天に挙げられたイエスの霊に導かれて福音がエルサレムからローマにまで拡大されていくさまを叙述する。この意味で本書は,史上最初の〈キリスト教史〉,とりわけ〈原始キリスト教史〉といえる。しかしその際著者は,歴史は神による救済の歴史であるという〈救済史観〉に基づき,次のような著作意図をもって本書を著している。すなわちそれは,第1に,〈イエスの時〉を対象とする福音書に続いて,本書により〈教会の時のはじめの時〉を理想的に描写することによって,〈教会の時〉に生きる異邦人キリスト者の信仰の土台を固めるとともに,それによって彼らの信仰を覚醒・強化すること,第2に教会の環境世界とくにローマ当局に対し,キリスト教の政治的無害性を護教的に印象づけることにある。したがって,歴史書としては,本書もまた傾向批判・史料批判を免れない。とりわけ,伝承資料に基づく個別的事件の歴史的背景を総括的に描く〈まとめの句〉や,ペテロ,パウロらの〈演説〉には,著者自身の思想傾向が出ているからである。成立年代は後90年代,成立地はエーゲ海周縁のいずれかの都市。
執筆者:荒井 献
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『新約聖書』のなかにある一文書で、イエスの昇天からパウロのローマ滞在に至るまでの初代教会を描いたもの。福音書(ふくいんしょ)記者ルカが福音書の続編としてこれを書いたと考えられている。その際、ルカは歴史家であるとともに神学者でもあるので、この記述を史料として用いるには、批判的検討が必要になる。表題の「使徒」という概念はあいまいであり、実際の内容としては、エルサレムにおける使徒会議の描写(第15章)を挟んで、前後ではペテロの活動とパウロの活動が中心に述べられる。成立の時期と場所ははっきりしないが、80~90年ごろローマで執筆されたとみなすのが普通である。
[土屋 博]
… ここからさらに進んで,信仰の光の下にキリスト教独自の教会像を追求するとき,パウロによって描きだされた〈キリストの体corpus Christi〉としての教会との出会いが起こる。この教会像はパウロがキリスト教へと回心するきっかけになった信仰体験にもとづくもので,彼はまだキリストの教会を迫害していたとき,教会に対する迫害はそのままイエス・キリスト自身に対するものであることを啓示された(《使徒行伝》9:5)。パウロはたんなる比喩としてではなく,文字どおりの現実――信仰において経験される現実――として,信者たちが〈キリストの体であり,ひとりひとりその部分である〉(《ローマ人への手紙》12:5,《コリント人への第1の手紙》12:27)と言明する。…
…その上限は,イエスをキリストと信ずる信徒たちを成員とする共同体が成立した時期であるが,これが〈教会〉という形をとるのはイエスの死後,後30年代に当たる。
[原始教会の成立]
最初の教会(いわゆる〈原始教会〉)は,《使徒行伝》の著者ルカによれば,聖霊の降臨にあずかった十二使徒を中心としてエルサレムに成立し,ペテロに代表される彼らの宣教内容はイエス・キリストの復活にあった。キリスト信仰の成立に,かつてのイエスの弟子たちの有した,復活のイエスの顕現体験に基づく復活信仰が大きな役割を果たしたことは事実である。…
…まず冒頭にイエスの言行録を記すマタイ,マルコ,ルカ,ヨハネによる4福音書が位置しているが,そのうちではマルコがもっとも古く,後65年ころに書かれたと考えられ,マタイとルカはほぼ確実にそのマルコ福音書を使用している。次に初代の使徒たちの宣教活動を記す《使徒行伝》が続くが,これは《ルカによる福音書》と同一の著者によって80‐90年ころに執筆されている。次にパウロの13の手紙が含まれているが,そのうち大多数の学者によって疑いなくパウロの真正の手紙とみなされているものは,今日七つのみ(ローマ,第1と第2コリント,ガラテヤ,ピリピ,第1テサロニケ,ピレモン)であり,残り(エペソ,コロサイ,第2テサロニケ,第1と第2テモテ,テトス)はパウロの弟子たちによるものと思われ,〈第2パウロ書簡群〉と呼ばれる。…
…パウロの真正の手紙ではない《テモテへの第2の手紙》も,ルカが獄中でパウロとともにあったと記しているが,詳細は不明である。ルカの名まえに関心が寄せられるのは,彼が新約聖書中の《ルカによる福音書》および《使徒行伝》の著者ではないかとしばしば推測されるからである。そのことの最古の証言は2世紀後半の〈ムラトリ正典〉断片であり,同時代のエイレナイオスもそう考えている(《異端反駁》)。…
※「使徒行伝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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