13世紀のドミニコ会士でジェノバの大司教となったヤコブス・デ・ウォラギネのラテン語による聖人伝集成。原題は《レゲンダ・サンクトルムLegenda sanctorum》であるが,広く行われたため15世紀に〈黄金〉の呼称がついた。レゲンダはミサの際〈朗読されるべきもの〉の意で〈伝説〉ではない。バンサン・ド・ボーベの百科事典の一部をなす《歴史の鏡Speculum historiale》,ドミニコ会士ジャン・ド・マイJean de Maillyの《聖人伝Gesta sanctorum》等を基に280章に集成された原著は,伝写の間に増補を次々とうけ,15世紀に印刷されるころには440章になっているものまである。原著は1267年ころ書かれたと推定され,13世紀の心性を知るのに好適とされる。広くヨーロッパ各国で読まれ,翻訳もされた。1348年のジャン・ド・ビニェによるフランス訳,1477年に印刷刊行されたカクストンによる英訳等が有名である。芥川竜之介は《奉教人の死》で聖マリナ伝をスタイセン著の聖人伝によって扱ったが,キリシタン版《れげんだ・あうれあ》によるとしたため,一時この架空の書の存在が信じられたという。
→聖人伝
執筆者:松原 秀一
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聖人の伝説と教会行事からなり、中世ヨーロッパにおいてもっとも流布(るふ)した本の一つ。イタリアのドミニコ会士で、ジェノバの大司教ヤコブス・デ・ウォラギネJacobus de Voragine(1230?―98?)によって1255年から66年の間に集成されたという。
もとより聖書の記述は素朴で、伝説に乏しく、ギリシア・ローマ神話に比べると、空想力、想像力において甚だ見劣りがし、とりわけオウィディウスの『変身物語』の絢爛(けんらん)さに圧倒されていた。それに対抗するものとして、キリスト教に殉じた多くの聖人たちの生涯や奇跡を、また数々の行事にまつわる物語を潤色し、空想化し、伝説化したのがこの『黄金伝説』である。この両著が中世の人々の想像力に大きくかかわったことは特筆される。『黄金伝説』は主の降誕と再臨に始まり、いわば旧約、新約両聖書の続編のように編纂(へんさん)され、中世カトリックの聖人伝説の根幹をなし、15世紀に印刷機が発明された際、ウィリアム・キャクストンなどによって、聖書に次いでこれが印刷されたことは、この書の重要性を物語っている。芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)の『きりしとほろ上人(しょうにん)伝』が79章に基づいているように、その影響は大きい。
[船戸英夫]
『前田敬作・今村孝他訳『黄金伝説』全4巻(1979~87・人文書院)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…聖人の伝記は本来信仰を鼓舞するために教会で朗読されたのでレゲンダlegenda(〈読むべきもの〉の意)と呼ばれたが,奇跡譚の強調を通じてしだいに物語性を強めレゲンダ(伝説)化の傾向をたどった。13世紀,ジェノバ大司教ヤコブス・デ・ウォラギネの編集した《黄金伝説(レゲンダ・アウレア)》は,その集大成である。聖人伝の諸場面は,絵画や彫刻に移されて教会を飾った。…
…カロリング朝時代には修道士による創作的伝記も盛んとなった。中世の聖人伝は歴史としての伝記を求めたのではなく宗教小説ともいえるものであり,この大成を13世紀の聖人伝集《黄金伝説》に見ることができる。 聖人伝研究は,16世紀のプロテスタントからの批判の前に歴史的正確さを求める必要に迫られ,ここに聖人伝学hagiographiaが成立した。…
…10世紀のオットー帝国もイタリア文化を尊重してラテン語を公用語にしたが,12世紀から13世紀にかけて再びルネサンス運動が起こって,ボローニャ,パリ,オックスフォードなど各地に相ついで大学が創設され,アベラール,トマス・アクイナス,R.ベーコンなどの大学者が登場した。このころに《ケンブリッジ歌謡集》《カルミナ・ブラーナ》などの詩集と,《黄金伝説》《ゲスタ・ロマノルム》などの伝説集が成立している。 14世紀はダンテ,ペトラルカ,ボッカッチョの世紀,イタリア・ルネサンスの前夜である。…
※「黄金伝説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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