改訂新版 世界大百科事典 「肺鬱血」の意味・わかりやすい解説
肺鬱血 (はいうっけつ)
pulmonary congestion
肺循環系に鬱血を生じた状態,つまり肺内血管内の血液量が増加している状態をいう。肺血液量の増加は,肺に流入する血液量の増加する場合(能動的肺鬱血)と,肺からの血液流出が制限される場合(受動的肺鬱血)とがある。能動的肺鬱血は,貧血や甲状腺機能亢進症,左右短絡血流などでみられ,肺毛細血管圧の上昇はわずかで,重症になることはない。受動的肺鬱血は,肺静脈圧上昇によるもので,種々の原因で起きる左心室不全による左室拡張終期圧上昇に基づく場合と,僧帽弁疾患とくに僧帽弁狭窄症におけるように,左心房のみの圧上昇に基づく場合とがある。肺鬱血は多少とも肺水腫を伴うもので,肺が伸びにくくなり,呼吸するのに大きい呼吸筋力を必要とし,また,肺でのガス交換機能が障害されるので,息ぎれや頑固な咳を生じ,動脈血中の酸素分圧は低下する。聴診上は,肺後下部で細かい湿性ラッセル音を聴取し,胸部X線写真では,肺門影の拡大・不鮮明化,肺尖への血流移動,肺下部での線状陰影の出現がみられる。
執筆者:白石 透
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報